江戸四大書僧・寂厳の思いに迫る 岡山


 「江戸の四大書僧」として良寛らと並び称された寂厳(じゃくごん)(1702〜71年)ゆかりの宝島寺(倉敷市連島町矢柄)は、その奥深い人物像を知ってもらおうと、同寺に伝わる直筆の漢詩集「松石餘稿(しょうせきよこう)」の出版に取り組んでいる。地元の同寺関係者が原典を活字に翻刻し、漢詩研究の第一人者で岡山大名誉教授の下定雅弘さん(70)=大阪府富田林市=に現代語訳と注釈を依頼。104編の詩に込められた寂厳の思いに迫っている。 寂厳は足守藩士の家に生まれ、11歳で出家。円福寺(倉敷市沖)の住職から京都に遊学し「悉曇(しったん=サンスクリット語)学」の研究に打ち込んだ。40歳で宝島寺の住職になり、晩年まで約30年間を過ごした。同寺に数多く伝わる研究書を中心にした著書や書跡などは、一括して県重要文化財に指定されている。 寂厳の著書を調査してきた同寺の釋子哲定住職によると、「松石餘稿」は10代から最晩年まで人生の哀歓をうたい、推敲(すいこう)を続けたライフワーク。「寂厳の心の声」を多くの人に伝えようと2012年、宝島寺古文書研究会の三宅昭三さん(74)=同市、米沢誠介さん(76)=笠岡市=らの協力を得て、出版に向けた作業に着手した。 寂厳が詩に込めた思いを深く読み解くため、下定さんに協力を依頼。下定さんは現代語に訳していく中で「中国の漢詩に基づいて一つ一つの言葉を選び、自身の思いを自在に表現している。博識ぶりと応用力に驚かされた」とした上で「実直、素朴で温かな人柄を実感する」と語る。 例えば、京都遊学を前に詠んだ詩は「経典を読みそらんじ、厳しい求道の道を進んでいく覚悟である」と率直に語り、弟子には「発心の初めを思い起こせ。成功は必ずそこにある」と諭すなど、ひたむきに信仰する高潔な人柄がしのばれる。一方、当時は気味悪い生き物とされたホタルを「宝玉が飛ぶよう」と素直に称賛し、朝寝する知人の高いびきを「山を崩すようなものすごい音」とからかうなど人間味も伝わる。 現在、全編の解読を完了し、5月上旬の刊行を目指して詰めの作業中。2千部作り、同寺関係者に配るほか、希望者には販売も予定している。釋子住職は「郷土が誇るべき偉人の寂厳を身近に感じ、親しむきっかけにしてほしい」と期待している。 31日に本尊を33年ぶりに開帳 宝島寺は31日、33年ぶりとなる本尊・十一面観世音菩薩(ぼさつ)像の開帳法会を行う。修復工事を終えた仁王門(倉敷市重要文化財)も併せて公開する。 同寺は、859(貞観元)年の開基と伝わる真言宗の古刹(こさつ)。平安時代の作とされる十一面観音像は33年に1度公開する秘仏。稚児行列を中心にした練り供養の後、午前10時から本堂で開帳する。市重文に昨年指定されたばかりの木造天部立像(りゅうぞう)をはじめとした寺宝約100点も本堂や客殿で披露する。 昨年9月から修復していた仁王門は午前9時半に落慶式。室町時代の創建当時を思わせる鮮やかな丹(に)塗りの姿を見せる。 寺宝の展示のみ4月1日まで。問い合わせは同寺(086—444—8035)。