高校指導要領 多面的な視点養いたい

 文部科学省が2022年度から順次実施する高校学習指導要領の改定案を公表した。
 主権者教育を重視した「公共」や、近現代の日本史と世界史を統合した「歴史総合」の必修科目を設けるほか、大学入試改革を踏まえて英語の科目を組み直す。55科目中27科目が新設となる大幅再編だ。
 昨年改定された小中学校の指導要領と同様、全教科を通じて「主体的・対話的で深い学び」の実践を掲げた。知識の詰め込みではなく自ら考える力を養うことは、複雑化する社会を生き抜く上で大切なことであり、それ自体に異論はない。
 問題は、この大再編に現場がきちんと対応できるかだ。文科省は実施までに内容を周知し、教員の研修に努めるとしているが、長時間労働が深刻な教育現場からは不安の声も上がる。教師の力量の向上が求められる再編だけに、教員配置を手厚くしてゆとりを持たせるなど、国の支援の方向を早急に示すべきだろう。
 指導要領は従来、現場の創意工夫を引き出すための最低限の学習内容という位置づけだった。それが今回、学習指導の在り方や方法論にまで具体的に踏み込んだ点も気になる。団塊世代の退職で若手教員が増えており、丁寧な説明が求められる面はあろうが、現場の裁量や工夫の余地を狭めないことが大事だ。
 公共は公民に新設され、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたのを受け、主権者として社会参加する力を育てるのが狙いだ。求められるのは、政治的中立を保ちつつ、生徒が現状の制度への批判を含めて主体的に考えられるようにする指導である。それには、さまざまな立場や意見を知る必要があるが、心配な面もある。
 例えば、改定案では、小中学校の指導要領に続き、竹島と尖閣諸島について地理歴史で「固有の領土」と初めて明記し、公民でも扱った。安倍政権の意向を映した形だが、韓国や中国との間で領有権を巡る見解の相違があることを踏まえ、他国の主張の内容も教えなければ、生徒は主体的に考えるどころか、思考停止に陥りかねない。
 文科省は「他国の主張を生徒に理解させることはあるが、自国の立場を優先して指導することになる」という。日本の立場を強調するあまり、「多面的・多角的な考察」を狭めることはないか。改定案に掲げる「日本国民としての自覚」が、自由な学びを縛ることがあってはならない。