自民党総裁選 信頼取り戻すのが先だ
秋に予定されている自民党総裁選を前に、安倍晋三首相は急速に求心力を失いつつある。再燃した森友・加計問題に加えて、イラク日報隠蔽(いんぺい)など深刻な問題が次々と発覚し、党内からも厳しい声が出ている。
安倍首相は「3選を目指す」どころではないことを自覚するべきだ。数々の疑惑や不祥事に対して真摯(しんし)に向き合い、国民の信頼を取り戻すために全力を尽くすことが求められる。
しかし、首相にそうした認識があるかどうかは伝わってこない。首相は17日から訪米し、その後も外交日程がめじろ押しとなっている。政権浮上につながる何らかの成果を得ようとの思惑はあろうが、結果次第ではさらに求心力低下を招くことにもなる。
外交以前にやらなくてはならないことがあるのではないか。共同通信が14、15両日に実施した全国世論調査では、内閣支持率は再び下落し、「首相案件」文書を巡る首相の説明に納得できないという声は8割に上っている。
次期自民党総裁に誰がふさわしいかとの問いでも、安倍氏の人気低落は著しい。党支持者層では首位を保ったが、前回調査を約10ポイントも下回った。
首相の求心力低下を受けて党内の空気が変わり、各派閥の思惑にも影響が出ているようだ。注目されるのは、「ポスト安倍」候補として取りざたされる石破茂元幹事長や野田聖子総務相らの動向だが、一連の問題を首相サイドのことと冷ややかに見るだけでは国民の不信感は募る一方だ。
とくに「本命」とも目される岸田文雄政調会長は、政権禅譲も視野に入っているためか、依然として踏み込んだ発言が少ない。声を上げるべきではないか。
規程改正で総裁選の仕組みが変わり、党員・党友による地方票の比重が高まった。今回の総裁選で初めて適用される。来年には統一地方選や参院選も控え、地方の目はとくに厳しさを増している。
15日に行われた近江八幡市長選では、自民党などの推薦を受けた現職が大差で敗れた。地元各党から政権の不祥事が影響したとの見方が相次いでいる。
官邸主導の「安倍1強」体制が続き、自民党内に多様で活発な議論が失われたとの批判は強い。首相と「ポスト安倍」候補には、それぞれの立場で目の前の問題に全力で取り組み、その上で総裁選に向けた活発な政策論議が展開されることを望みたい。
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