【岡山から伝えたい】「もっと救えた命があったかも」 100人救助もよぎる悔しさ 真備 (生死の分岐点にも ハザードマップの周知が必要だ)


( 生活圏の「ハザードマップ」の確認と「ハザード行動」メモの作成・・・・ 「命を守るメモ」 )
「マップが身近なものと感じられるよう、作成時から住民の意見をよく聞くことが大切。(書き込んで学べる)ワークブック形式を採用するなど内容にも工夫が必要だ」


  200人以上の死者が出る「平成最悪」の水害となった西日本豪雨。被災地の地元メディアである山陽新聞社が、救助活動の実相を伝える。4河川8カ所の堤防が決壊し、甚大な浸水被害を受けた倉敷市真備町地区。被災した住民たちへの取材で、未曽有の災害の実態に迫る数々の証言を得た。西日本豪雨により河川の堤防が相次ぎ決壊したことで、倉敷市真備町地区は7月6日から一晩のうちに広範囲で濁流にのみ込まれた。辛うじて民家の屋根や2階、電柱の一部が水上に姿をとどめるだけになった。

 翌7日の午前5時。玉島消防署の救助隊長、伊藤周平さん(41)は同町下二万の二万橋から同僚とゴムボートで小田川の北エリアにこぎ出し、白み始めた周囲の光景に息をのんだ。

 屋根の上に人、人、人…。泥だらけの男性に高齢夫婦、幼児と寄り添う母親。手やタオルを振って助けを求めている。雨は小康状態だったが、体を小刻みに震わせ低体温症とみられる人も少なくない。

 「俺らは後でええ。年寄りと子どもが先じゃ」。会社員松田聡一さん(48)=同町箭田=が叫んだ。小田川北岸の決壊で高さ3メートルまで自宅が漬かった7日未明から屋根の上に逃れ、隣近所と「諦めんな」「絶対助かる」と励まし合っていたという。

 救助活動は、濁流に浮かぶ木片やタイヤ、水面下に隠れた電線などを避けながら困難を極めた。見渡せる範囲だけでも数十人が助けを待ち「時間も人手も圧倒的に足りなかった」と伊藤隊長。6日夜から絶え間なく寄せられる救助要請に対応し、夜明けからはボートで駆けずり回った後、職場に戻ったのは7日の夜だった。


抱き抱えられて避難する高齢者。奥に見える水上バイクで運ばれてきた=7月7日、倉敷市真備町川辺
自発的に
 浸水域は末政川東岸(同町有井)の決壊で7日昼までに川辺、岡田、辻田と同町東部エリアにまで広がった。消防は二万橋、自衛隊と警察は川辺橋に現地本部を設置。孤立した病院や老人ホームからのヘリコプターによる救出も加わった。ポンプ車20台以上による排水で水が引き始めた9日朝までに同町の浸水域から助け出したのは約2350人に上った。

 しかし、取り残された住民は他にも多数いた。その人たちを救ったのは水上バイクや川舟で自発的に動いた一般市民だった。

 建設業内藤翔一さん(29)=総社市真壁=は、同じ真備町地区出身で友人の上森圭祐さん(25)=岡山市北区今=に母親を助けるよう頼まれて7日昼、水上バイクで同町岡田、辻田に向かった。最も遅れて浸水した両地区にはまだ、救助の手が及んでいなかった。

 「すぐに行く」。数メートルおきに助けを求める声が聞こえ、安心させるため一人一人に声を掛けた。上森さんも釣り用のボートで駆け付け、手分けして8日未明まで約15時間にわたり活動。安全な所に移動させた住民は2人で200人を超えていたという。

複雑な思い
 無我夢中で救助に当たった人たちは、多くの命を救ったとはいえ複雑な思いも抱える。

 会社員木山昌治さん(61)=同町川辺=は、自前の川舟(全長6メートル)を操り、7日午前から8日未明までに100人以上を救出。多くの人から涙ながらに感謝されたが、真備町地区で51人の犠牲者が出た現実が胸を締め付ける。同じ川辺地区では高齢者ばかり6人が亡くなった。「みんな逃げたと思っていたのに…。浸水した面積も被害者の数もあまりに甚大すぎた」

 上森さんは、助けた40代ぐらいの男性がおえつを漏らしながら発した言葉が忘れられない。「高齢の男性が目の前で溺れ、沈んでいったが何もできなかった」。自分が早く駆け付けていればもっと救えた命があったかもしれない―。そんな思いがその後も頭をよぎるという。

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生死の分岐点にも ハザードマップの周知が必要だ

 なぜ、これほど甚大な被害になったのか、何が生死を分けたのか−。8日付朝刊に掲載された西日本豪雨に関するアンケートは、被災地で復旧作業などを取材する記者たちが、岡山県倉敷市真備(まび)町の3カ所の避難所で聞き取り調査した。避難行動に注目すべき違いがあった。 

 ハザードマップ(どの地域に、どの程度の被害が予測されるかを示す地図)を知っていた人は、大雨警報が出る直前から避難を始め、最初の避難指示が発令された時点では8割近くが避難していた。堤防決壊などで浸水した地域は、想定区域図とほぼ同じだったが、問題はハザードマップを知っていた人が半数にとどまることだ。

 どんなに正確な予測をしても、周知されなければ意味がない。ハザードマップに基づいて防災計画を立て、避難訓練を行い、避難路や避難所を目につくように表示しておきたい。災害はいつ起きるかわからないのではなく、いつ起きても不思議ではないと認識すべきだ。
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岡山 倉敷 真備 ハザードマップ 住民に浸透不十分  西日本豪雨

「マップが身近なものと感じられるよう、作成時から住民の意見をよく聞くことが大切。(書き込んで学べる)ワークブック形式を採用するなど内容にも工夫が必要だ」


  西日本豪雨を機に、浸水や土砂災害の危険箇所を示す「ハザードマップ」(危険予測地図)が住民に浸透していないという課題が浮かび上がっている。甚大な浸水被害が起きた倉敷市真備町地区でも認知度は低く、避難時に生かされなかったとの声が目立つ。同地区ではマップの予測と実際の浸水範囲がほぼ合致。国は各自治体に住民への周知徹底をあらためて要請している。 「マップは一度見たことがあるくらい。これまで避難した経験もなく、自宅は大丈夫だと思っていた」 倉敷市真備町地区で被災した男性(69)が話す。雨が激しさを増していた先月7日、自宅から周囲の様子を見ていたところ、水かさが一気に増して2階近くまで浸水。近所の住民からボートを借りて何とか避難した。

■予測とほぼ一致 山陽新聞社が真備町地区の住民100人に先月行ったアンケートによると、75%がマップの存在を知っていたが、内容を理解していたのは24%にとどまった。同地区の別の男性(79)も「配られたときにざっと見た程度」と打ち明ける。 倉敷市は2016年に洪水・土砂災害ハザードマップを改訂し、高梁川や小田川が決壊した場合の浸水区域や深さを程度に応じ色分けして表示した。今回の豪雨では同地区の3割に当たる約1200ヘクタールが浸水し、予測と実際の浸水範囲がほぼ一致。住民に周知徹底されていれば、犠牲者は減らせた可能性がある。 市はこれまで、市広報紙とともにマップを全世帯に配布。広報紙でマップの使い方などの特集を組んだほか、自主防災組織などの依頼を受けて出前講座を開き、17年度は市内で48回(真備町では1回)開催し、マップの存在を知らせてきた。 それでも今回の豪雨で真備町地区では51人の死者が出た。市担当課は「マップが避難に生かせていなかったとすれば非常に悔やまれる」と声を落とす。


■身近なものに  周知不足は倉敷市に限らないようだ。砂川の決壊で周辺の2230棟が浸水した岡山市。16年3月に洪水・土砂災害のマップを改訂し、使い方の出前講座などを市全域で年170回程度開いているものの、防災担当者は「来るのは防災意識の高い人。家族や近所には広がらない」とこぼす。 真庭市は出前講座のほか、水害が起こりやすい5、6月に広報紙でマップ活用を呼び掛けてきたが「すぐ取り出せる場所に保管されていない。新たな周知方法を考えねば」と担当者は言う。 国土交通省は西日本豪雨を受け7月13日付で、マップを住民に周知徹底するよう各都道府県に通知。石井啓一国交相は会見で「マップの存在が知られていないなど、防災情報の確実な提供には改善すべき点がある」と語った。 防災マップに詳しい山陽学園大の渋谷俊彦教授(建築学)は「マップが身近なものと感じられるよう、作成時から住民の意見をよく聞くことが大切。(書き込んで学べる)ワークブック形式を採用するなど内容にも工夫が必要だ」と指摘する。
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