「1000人の金田一耕助」今年も真備町で コスプレ企画に込めた復興への思い


 小説家の故・横溝正史さんが疎開し、金田一耕助シリーズの第一作となる「本陣殺人事件」を発表したことで知られる岡山県倉敷市で2018年11月24日、金田一シリーズをテーマにしたコスプレイベントが開催される。


 金田一耕助をはじめ作品の登場人物に扮したファンが集まるイベント。それはコスプレだけに留まらず、作品のシーンの再現まで行うのだとか。一体、どんなイベントになるのか。過去の実施模様などを取材した。

学生のミステリーイベントも開催
倉敷市は金田一シリーズの生みの親、横溝さんゆかりの地。横溝さんが疎開していた家は「横溝正史疎開宅」として保存されているほか、「金田一耕助の小径」というウォーキングコースも整備。「八つ墓村」に登場する森美也子など作品に登場するキャラクター像も設置されている。

このように街全体が横溝作品を大切にしている。それに呼応するかのようにファンたちもこの場所へ集まってくる。「巡・金田一耕助の小径」は東京・二松学舍大学メディア祭実行委員会の学生による体感型推理ゲーム「名探偵 刑部大輔(おさかべだいすけ)の事件簿」が11月10日と11日、倉敷市芸文館で実施。横溝ファンだけでなく推理ファンや前知識のない一般の人でも楽しめる「推理版脱出ゲーム」も用意されている。また、コスプレイベントの前日からはスタンプラリーも行われる。

数々のイベントが用意されているが、やはりメインとなるのが「コスプレイベント 1000人の金田一耕助」だ。

東京や大阪で頻繁に開催されているアニメやゲームのコスプレイベントとは趣が違っている。「本陣殺人事件」の舞台にもなった清音駅(総社市)に集合し、町を練り歩く。

以前開催した際の集合写真(提供:倉敷市観光課)
その道中に地元真備町の方々が小説の一場面を再現する。撮影が主となる前者と異なり、聖地を堂々と歩き、挙句、地元住民を巻き込んで寸劇でシーンまで味わえる体験型のコスプレイベント。こうなってくると登場人物になりきるよりも身をもって作品の情景を楽しむためのアイテムとしてコスプレが成り立っているようにも思える。

寸劇の瞬間をとらえたワンシーン(提供:倉敷市観光課)
衣装は金田一耕助をはじめする横溝作品のキャラクターに留まらず、他作家の名探偵でも参加可能だ。

コスプレイベントの後にはファン同士が語り合う「意見交換会」も実施される。

かなりマニアックなイベントのような印象も受けるが、どれほどの人が参加しているのか。Jタウンネット編集部は11月5日、倉敷市観光の担当者に話を聞いた。

「心配された方に元気な姿を見せたい」
担当者によると、2009年にスタートした当初は30人程度と小規模だった。しかし、

「去年、一昨年は120人くらいの方が参加していました」

開始当初の約4倍もの人が集まるようになった。これについて担当者は、

「ある程度、SNSの影響はあるかもしれない」

と言及。さらにリピーターの存在も大きいと話した。

「寸劇や意見交換会で出されるご飯といった地元の方のおもてなしが好評です」

地元の方の尽力もあり、リピーターの存在が生まれているようだ。

また、金田一ファンや横溝ファンの多さと根強さも大きいという。SNSが発達した時代であってもフェーストゥフェースで大好きな作品について語り合える「意見交換会」の楽しさも大きな魅力だ。

しかし、開催エリアである真備町は7月の西日本豪雨で大きな被害を受けた地域。イベントが開くのも難しかったのではないか。

実際に豪雨のため衣装や小道具が流され、使えなくなってしまった。さらに寸劇をしていた地元の方も被災。そんな中でありながらも地元住民の熱い思いがあった。

「復興を頑張ってきたことを見てほしい。心配された方に元気な姿を見せたい」

この思いを実行委員会が後押しするためにも開催を決定した。

ファン、自治体、そして地元住民と三者の情熱が一体になるからこそ盛り上がり、楽しめる。推理愛を超えた思いが込められる大事な催しだ。

コスプレ、意見交換会ともに事前申請が必要。受付はインターネットで行われ、11月9日まで。参加費は500円で、参加者にはイベントポスターがプレゼントされる。