がん患者 終末期の苦痛和らげたい

 今年も残りわずか。この1年に、鬼籍に入った方の顔が思い浮かぶ時期である。
 多くの人が記憶しているのは、9月に亡くなった俳優の樹木希林さんではないか。
 お茶の間の人気者であり、円熟した演技で高い評価を受けたこともあるが、乳がんを告知され、その後、全身に転移したことを明らかにしていたのも、強い印象を残したようだ。
 がんについて、本紙掲載のインタビュー記事で「生活の質を下げない治療法を探すのは大変です」「痛みを耐えて死ぬのは嫌」「いつの間にか消えてるのが理想でね」などと述べ、共感を得ていた。
 最終的にどのような心境で亡くなられたのか、できれば知りたいと誰しも思う。
 がんと闘い、亡くなる直前の患者に対して、自らの病状を客観的に語れというのは、酷だろう。終末期医療に関する調査が難しい、といわれるゆえんでもある。
 しかし、日本人の死因の第1位は、がんである。患者の療養生活や苦痛について、知っておくことは重要だ。
 国立がん研究センターが、厚生労働省の委託を受け、初めて全国規模の調査に着手し、先日公表した。貴重な資料として、参考にしたい。
 調査の対象となったのは、患者本人ではなく遺族である。寄り添っていた家族の視点を通して判断する手法が採られ、1600人余りが回答した。
 亡くなる前の1カ月、「穏やかな気持ちで過ごせた」という人は53%に上る。半数以上は楽にしておられたのかと思うと、ほっとする面もある。
 だがその半面、約4割の方が痛みや吐き気、呼吸困難などの苦痛を抱えていたことも、分かった。
 亡くなる1週間前の時点になると、痛みが「ひどい」「とてもひどい」とした人が、3割近くもいた。ある程度、予想されていたとはいえ、患者の苦痛が日々増していく様子が、はっきりとうかがえる。
 調査結果をもとに、同センターは報告書で「人生の最終段階にある患者のうち3~4割程度の方々が、苦痛や気持ちのつらさを抱えており、治療や緩和ケアの対策が必要と示唆された」とした。
 緩和ケアは、病気に伴う患者の心や体の痛みを和らげる措置で、がん対策の分野で充実を望む声が高まっている。
 がんの診療に当たる医療機関では、基本的な緩和ケアの体制が整っているべきだが、そうではないケースもあるという。
 調査をきっかけに、厚労省が対策の実施を加速させるよう求めたい。
 今回は、介護した家族の中で患者との死別後、うつ症状の現れた人の割合が、一般の有症率より高いことも明らかになった。併せてケア実施を検討していかねばならない。
 来年、同センターは心疾患、肺炎、脳血管疾患、腎不全を含めた約5万人の遺族を対象に調査を行う。都道府県別の実態も把握する意向だ。地域におけるがん治療の改善に、つながることを期待したい。