岡山 <第95回箱根駅伝> 東海大「箱根マニア」中島怜利(岡山 倉敷高出身)、6区で逆転Vへ前進
箱根駅伝 東海大 中島500
箱根駅伝 東海大  中島怜利(岡山 倉敷高出身)

 <第95回箱根駅伝>◇3日◇復路◇箱根-東京(5区間109.6キロ)

往路2位の東海大の中島怜利(3年)が6区を58分7秒で駆け降り、悲願の優勝に前進した。芦ノ湖のスタート時には1分14秒差あった1位東洋大との差を、1分8秒に縮めた。

自他ともに認める「箱根駅伝マニア」。実家は兵庫・姫路市ながら、中学1年から高校3年まで6年間、正月は箱根駅伝観戦に来ていた。ディズニーランドやスカイツリーなど東京観光には興味を示さず、箱根駅伝を観戦するだけの旅行だった。5区と6区の最高点、標高874メートルの場所で見るのが定番だったという。そんな憧れの舞台。3年連続となった6区で、しっかりと仕事を果たした。

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平成最後の 箱根駅伝 岡山の高校出身選手8人   (倉敷高出は6人)  東海大は優勝候補か?

 
 来年1月2、3日に行われる東京箱根間往復大学駅伝に出場する23チームのエントリー選手(各16人以内)が10日に発表され、岡山の高校出身者は8人が登録された。倉敷高出は6人で、東海大3年の中島怜利、中央学院大2年の畝歩夢、日大1年の北野太翔、中大2年の畝拓夢と、明大では2年前田舜平、1年名合治紀がメンバー入り。大東文化大3年の豊田紘大(商大付高出)、中大2年の池田勘汰(光南高出)も選ばれた。

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東海大が悲願の初優勝。快走の布石は昨年の箱根から始まっていた
(当時2年生の中島怜利(れいり)と館澤亨次(たてざわ・りょうじ)のふたりだった。昨年の箱根駅伝終了後)


これまで幾度となく優勝候補に挙げられながらも、箱根駅伝で結果を残せずにいた東海大。昨年も大きな期待を集めながら、総合5位に終わってしまった。しかし、そんななかでも光った走りを見せたのが、当時2年生の中島怜利(れいり)と館澤亨次(たてざわ・りょうじ)のふたりだった。昨年の箱根駅伝終了後、『web Sportiva』で「敗れた東海大で光った6区、8区は、次こそ箱根初優勝の布石となるか」と記事を配信し、中島、館澤の好走にスポットを当てていた。そして今年の箱根で、4区を走った館澤が区間2位、6区を走った中島も区間2位の力走で、東海大の悲願の初優勝に大きく貢献した。あらためて、昨年の箱根での東海大の走りを振り返ってみたい。

(2018年1月7日配信)

※選手の学年は昨年当時のもの


昨年と同じ6区を任され、区間2位の走りを見せた東海大・中島怜利

 箱根駅伝、総合5位に終わった東海大学。

 出雲駅伝優勝、全日本大学駅伝2位と結果を出し、箱根は初優勝を狙えるだけのメンバーが揃っていた。だが、往路が不発に終わり、まさかの9位。トップの東洋大学とは5分40秒、2位の青山学院大学にも5分の差をつけられ、総合優勝の芽はあっけなく潰(つい)えてしまった。

 両角速(もろずみ・はやし)監督も「お手上げ」の状況で、あとは復路でどのくらい巻き返せるかというところにフォーカスするしかなかった。

 その復路で今後を期待させる選手がいた。

 6区の中島怜利(2年)と8区の館澤亨次(2年)である。

 中島と館澤はそれぞれ区間2位という走りを見せ、高い走力を示した。また、この6区、8区の要所は、青学大では小野田勇次(3年)と下田裕太(4年)が走り、必勝パターンになっていたのだが、中島と舘澤はそれと同じ存在になり得ることも証明したのである。

 中島はスタート前、「とにかく流れをつくる」ことを意識したという。

「昨年は15位で流れがよくない中でのスタートだったんですが、今回も同じ感じでのスタートでした。でも、1分圏内に5チームいたので、自分がいけば、力のある選手が後ろにいる。とにかく自分がいって、いい流れを作ろうと思っていました」 

 中島はスタートから突っ込んだ走りを見せた。15秒差で前を行く順天堂大、22秒差の日体大の選手を追い、5.7km地点で2校をとらえた。

「実はスタートを待っている間、前の選手が『俺、登り遅いからな』っていう話をしていたんです。最初、登りが続くんで、それを走る前に聞いてラッキーだなと思っていましたね。それで前半ちょっと突っ込み過ぎたんですけど、前が見えていたので、とにかく抜いて、また違う選手を見て、抜いてという感じでした。このまま4位スタートの拓大のところまではいけるかなって思っていたので、かなり飛ばしました」

 161cmの中島は坂道を転がるように下りていった。下りはほとんど力を使わないので、ラクなのだという。それだけ飛ばせるのはコースを理解しているのも大きい。5区、6区は特殊区間なだけに経験が走りにも大きく影響する。

「今回、東海大の10人のメンバーの中で唯一、自分だけが(前回と)同じ区間を走らせてもらいました。やっぱり、一度経験しているのは大きいと思います。昨年は観客の声援とかもすごくて、なんかフワフワして走っていたんですけど、今回は昨年の経験があったので誰よりも安定した走りを見せないといけないと思いました 

 後半もうちょい伸びたらと思いましたが、自信を持って走ることができました。5位までいく目標を達成し、流れをつくることができたので、自分の仕事はできたかなと思います」

 中島の自信の源は1年間の練習量だ。夏は3週間ほど実業団の夏合宿に参加し、毎日40km以上、ときには60kmを走ったこともあった。距離を踏むことで走れる脚をつくることができ、同時に箱根対策として後半の10kmをどう走るのかを考えた。その脚作りと後半10kmの対策が今回、生きた。

「最初の順大と日体大はスッと前に追いつくことができたんですが、法政大と拓大は10kmまで、そんなに差が詰まっていなかったんです。でも10kmを過ぎて、傾斜がだんだん緩くなってきたところで差を詰めることができた。そこは夏から脚作りをしてきたことと後半の対策をやってきたおかげかなと思いました」

 負けん気も強い。5000mや1万mなどトラックで結果を出し、注目を集める同期の選手を尻目に中島は「箱根しか注目を浴びるチャンスがない」と、6区1本の走りにすべてを懸けている。箱根駅伝の記者発表会では關颯人(せき はやと/2年)、鬼塚翔太(2年)、阪口竜平(りょうへい/2年)らが大勢の記者に囲まれているのを見て、「来年はこの格差を埋めて逆転してやりますよ」と闘志をむき出しにしていた。

 そして、今回、中島は自らの走りで多くの人の注目を集めた。有言実行だね、と声をかけると、中島は嬉しそうに笑った。

「今回、箱根を走っている選手の多くは出雲や全日本を走っているんですが、僕は箱根1本しかないですからね。1年に1本の大きなレースですので、これに合わせられなくてどうするんだって気持ちでいます。

 正直、調子がいいとか、悪いとか、関係ないですし、箱根で力を発揮できないなら、陸上をやっている意味がない。そのくらいの覚悟で自分はいます。実は当日、宿の枕が合わなくて背中が張って少し嫌な感じだったんですが、1年に1本ですからね。もう走るしかないって思っていきました」

 タイムは昨年の59分56秒から58分36秒と大幅に自己記録を更新し、さらに順位を4つも上げた。単純計算はできないが来シーズン、58分前半もしくは58分を切ってくる可能性もあり、そうなると中島の6区は青学にも負けない強力な区間になる。そういう強みのある区間をいくつ作れるかで箱根初制覇が見えてくる。

「昨年は10位、今年は5位。年々よくなっていますからね。青学みたいに4回も望まないんで、1回は勝ちたい。そのためならまた(6区を)走ります」

 中島は、そういうと、「また1年がんばります」と小さな笑みを浮かべた。

 *      *     *

 8区の館澤は、当日の朝まで箱根を走れるとは、本当に思っていなかったという。

「3、4日前に監督に言われてはいたんですが、正直、当日まで自分が走れると思っていなかったです。11月のセブンヒルズのレース(オランダ)がダメで、個人的にはそんなもんって感じだったんですが、周囲から見れば、15kmで失敗したというイメージが強かったと思うんです。

 その後、その印象を覆すような走りができていなかったですし、12月下旬の富津合宿も調子は悪くなかったですが、他にも調子の上がっている選手がいたので……自分はないかなぁって思っていたんです」

 しかし、最終的に8区の指名を受けたのは館澤だった。

 1月3日の朝、区間変更されたのだが、その直後からツイッターでは館澤の目を疑うような言葉がツイートされていた。

「館澤8区!? 終わった」
「館澤かー。無理だー」

 それを見た館澤は、気持ちが奮い立ったという。

「いろいろ言われて悔しかったですね。長距離、走れないみたいなイメージがあったと思うんで、絶対に見返してやるって思っていました」

 ツイッターの反応でモチベーションが上がった。館澤はさまざまな言葉を飲み込んで、ロードへ飛び出していった。

 館澤はスピードに特化した練習に取り組んだ東海大が生んだ成功モデルと言える。日本選手権1500mで優勝し、出雲駅伝では2区(5.8km)を区間2位の走りで優勝に貢献した。

 全日本でも3区(9.5km)で区間賞の走りを見せた。春からのウエイトトレーニングで筋力が増し、体幹が安定した。見た目は長距離選手とは思えない筋肉質な体をしているが、体自体には重さを感じていないという。むしろ安定して走れるようになり、走力がついてきた。長距離が弱いと指摘されてきたが、弱いどころか、今回の箱根では今後8区(21.4km)の主役になり得るような走りを見せたのだ。

「正直、21kmはめちゃくちゃキツかったです。長距離は得意なわけではないので。でも、負けてたまるかっていう気持ちでなんとか走れました。8区を今回走ってみて、かなりの手応えを感じました。

 箱根には主要区間ってあると思うんですけど、青学は下田さんが8区でしっかりと結果を出して勝利に結びつけています。すごく大事な区間になっていると思うので、来年もこの8区を狙いたいと思っていますし、ここで結果を出していきたいですね」

 8区はコース的にも館澤向きだ。最初の10kmは平坦な道が続くが、15.9kmからは遊行寺の坂、原宿からの上り坂が続く。館澤は1年時、5区を走るなど上りもそれほど苦にしていない。館澤に8区を任せることができれば、来季はより攻撃的な布陣を敷くことができるのでないだろうか。少なくとも6区、8区を軸に復路で勝負できる配置が可能になれば、5位よりさらに上を目指すことは可能になる。

「今回の5位は誰が走ってもこの順位だと思います。これが今の東海大の力なので、これをしっかりと受け止めることですね。箱根はまず3位内に入ることが重要だと思います。3位内に入るというのは戦えている証拠なので、それを続けていけば優勝できると思うんです。そうして、うちが取り組んでいる”スピード”を武器に戦えることを証明したいですね」

 館澤は強い決意を秘めた引き締まった表情で、そう言った。

 2018年シーズンも館澤はやり方を変えないという。むしろ2017年にやってきたことをより進化させていく。

「今回の箱根で1500mも20kmもやれるということがわかったんで、今後もこの2つをやり続けていきます。ただやるのではなく、1500mでは世界を目標に、箱根では区間賞を目指して貪欲にやっていきます」

 青学大の強さが目立った今回の箱根駅伝だが、勝負を決めたのは6区と7区。だが、それも8区に下田というエースが控えていたことが大きい。青学の必勝パターンは6区と8区に絶対的な存在がいて、後続を大きく引き離す展開なのだ。

 今回、東海大にも6区の中島、8区の館澤という必勝コンビが誕生した。東海大の多くの選手が力を発揮できずに終わったなか、中島と館澤の走りは沈みかけたチームを救ったのだ。両角監督も「2人は昨年以上の走りをしてくれた。同じように並べられるかわからないですが、可能性としては面白い」と語っている。

 中島、館澤がそれぞれ区間賞を取るような走りができれば、箱根駅伝3位内はもちろん、初優勝も視界に入ってくるだろう。

 そのくらい大きな武器を敗戦のなかから東海大は手に入れたのである。

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箱根駅伝 なんと区間賞の70%を“厚底シューズ”が叩き出していた!

今年の箱根駅伝はテレビの前からまったく離れられなかった。区間新記録が続出し、順位も目まぐるしく入れ替わる非常に見応えあるレースだったからだ。世間的には青山学院大の5連覇なるかに注目が集まっていた。“常勝”を阻止するとしたら、どの大学か? 結果は、東海大が悲願の初優勝(総合)というドラマチックな展開となった。往路優勝は去年と同じ東洋大、総合5連覇は逃したものの青山学院大も根性の復路優勝をもぎ取った。最初から最後まで息を抜くことができなかった。

230人中なんと95人がナイキのシューズを履いていた

 さて、こうした表の激戦の裏でシューズメーカの熾烈なシェア争いが展開していた。箱根駅伝での“活躍”は絶好の宣伝チャンスでもある。私は昨年12月31日の大晦日に〈ナイキの厚底シューズ快進撃は2019年も続くのか〉という記事をアップしている。この箱根駅伝で各選手が履くシューズがどうなっているのか、とりわけナイキの話題の厚底シューズ「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ4%フライニット」を着用する選手がどのくらいいるかが気になっていた。メモをしながら食い入るようにテレビを観ていた。

 今回の駅伝では、昨年のシカゴマラソンの大迫傑選手や福岡国際マラソンの服部勇馬選手が履いていたオレンジ色のヴェイパーフライ4%と、新たに発売された白っぽいカラーのシューズが混在していた(タイトル画像参照)。私の見た限りでは、2日の往路は参加23校115選手のうち40人以上がナイキのシューズを履いていた。昨年は2日間で40人だったから、これは大変な数になるぞと思っていたら、大会直後にナイキが公式サイトで集計結果を公表していた。それによると、往路46人、復路49人で2日間合計すると230人中95人、実に41%の選手がナイキを着用していたことになる。そして、そのほとんどが厚底のヴェイパーフライ4%だった。



 これがどれだけ凄い数字かというと、過去のシェア率の数字と比べるとわかりやすい。2017年は1位アシックス(32%)、2位アディダス(29%)、3位ミズノ(26%)、4位ナイキ(17%)の順番だったが、2018年はヴェイパーフライ4%を投入したナイキの大逆転が話題をさらい、1位ナイキ(28%)、2位アシックス(26%)、3位ミズノ(18%)、4位アディダス(18%)になった。それでも20%台だった。それが今年は一気に40%台へと跳ね上がったのだ。それだけではない。

強い選手ほど“厚底シューズ”にシフトしていた!

 各区間の上位3位までの選手に限っていうと、30人中18人がナイキを着用していた。つまり60%のシェア率だ。さらに、区間賞(各区間1位)だけを拾い出してみると、

1区:西山和弥(東洋大) ヴェイパーフライ  1:02:35
2区:ワンブィ(日大) ヴェイパーフライ 1:06:18
4区:相澤晃(東洋大) ヴェイパーフライ 1:00:54☆
5区:浦野雄平 (國學院大) ヴェイパーフライ 1:10:54☆
8区:小松陽平(東海大) ヴェイパーフライ 1:03:49☆
9区:吉田圭太(青学大) ヴェイパーフライ 1:08:50
10区:星岳(帝京大) ヴェイパーフライ 1:09:57
(☆は区間新記録)

 7選手がナイキの厚底シューズを履いていたのだ。シェア率70%である。また、今年の箱根駅伝では区間新記録が5区間で出ているが、そのうち3つを叩き出したのがヴェイパーフライ4%だった。

 さらに、2年連続で往路優勝した東洋大の選手の多くがヴェーパーフライ4%を履いていることは有名なのだが、実は感動の初優勝を遂げた東海大も7人がナイキで、うち6人がヴェイパーフライ4%着用だったことがわかった。アンカーとしてゴールテープを切った郡司陽太選手や8区で区間新を出した小松選手などである。



 いやはや、2019年もナイキの厚底シューズが席巻することはある程度予想はしていたが、ここまでとは。厚底快進撃はしばらく止まりそうもない。
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2020年箱根駅伝へ、強豪校の今後を展望  青学大、主力5人抜け全く違うチームに?

2日、3日に行われた箱根駅伝は、東海大の初の総合優勝で幕を閉じた。一方で総合5連覇を狙った青山学院大は、往路6位から追い上げるも届かず2位に終わった。

 次回大会に向けて「戦いは今この瞬間から始まっている」と語るのは、駒澤大の元エースで現在はランニングアドバイザーを務める神屋伸行氏。各校は来季に向けてどのように走り出すのか、展望を聞いた。
「来年も東海大が圧倒的に強い」とは言い切れない

初の総合優勝を果たした東海大は、主力として活躍した3年生が来季も残る。果たして今後の展望は!?
初の総合優勝を果たした東海大は、主力として活躍した3年生が来季も残る。果たして今後の展望は!?【写真:西村尚己/アフロスポーツ】
――3年生以下の選手が残る来季、駅伝強豪校の勢力図はどういった形になりそうですか?

 両角速監督が「来年のことはまだ分からない」と話していたように、東海大は今年の3年生が主体で来年もチームに残るのですが、(4区区間2位の)館澤亨次選手が1500メートルで世界を目指すために、もしくは(7区区間2位の)阪口竜平選手も3000メートル障害で世界を目指すために来年は箱根を走らないかもしれない……という話があります。

 東海大は世界に選手を出したいという思いを持って取り組んでいるチームなので、もしかしたら今回走った3年生の中から「僕は今年で箱根駅伝を卒業してトラックにいきます」という選手が出てくるかもしれません。なので、一概に「来年も東海大が圧倒的に強い」とは言い切れません。ただ、關颯人選手や松尾淳之介選手、高田凜太郎選手など今年出場しなかった選手の中にも駒がたくさんいるので、やはり東海大が話題の中心になるのかなと思います。「あの選手は(来年の)箱根を走るのか」といった意味でも注目されるかなと。

――10区間中、4年生が5人走った青山学院大は、今後3年生以下がチームをつくっていきます。

 青山学院大はただ5人が抜けるだけでなく、(山の)特殊区間を含めた主要な区間がゴソッと抜けてしまいます。精神的な柱でもあり青山学院大の象徴でもあった選手たちが卒業するので、全く違うチームになっていくと思います。東洋大にしてもそうですが、どのようにこれからチームをつくっていくのかが注目されます。

 今の青山学院大は1万メートルを中心に、箱根駅伝の仕様に合わせていくために長めの距離を踏んでいます。5000メートルの記録を見ると、橋詰大慧選手ら何人か得意にしている選手もいますが、記録はそこまで速くはありません。その点、東海大は5000メートルをやりながら1500メートルも取り入れ、かなり速いスピードをつけてきました。青山学院大は今後も今までの体制でやっていくのか、それともトラックをもっとやっていこうという発想になるのか……。

――総合3位の東洋大はいかがでしょうか?

 東洋大は青山学院大と少し似ているところがあります。東洋大はハーフマラソンを中心に練習を積んできているので、1万メートルではあまり速いタイムを出してはいません。学生三大駅伝すべてでしっかりと3位以内に入り、毎回優勝争いをするとても強いチームではあるのですが、勝つために今までのスタイルでやるのか、それともトラックをもっとやろうと考えるのかといった感じなると思います。

 東海大は今回トラックから長い距離へと強化の軸を移しました。青山学院大は1万メートルを中心にしていて、東洋大はよりロードに力を向けています。その彼らが今後、方針転換をするのかどうかが気になります。この後にハーフマラソンやマラソンを走る選手もいると思いますが、4月から始まるトラックシーズンに、果たして各校の選手がどの距離のレースにエントリーするか。それによってチームづくりの方向が見えてくるので、注目したいですね。
今後注目すべきチームはどこか?

――印象に残ったチームを挙げるとするとどこでしょうか?

 来季面白いかなと思うのは国学院大です。東洋大は(2区区間4位の)山本修二選手が抜け、東海大も2区を走った大黒柱の湯澤舜選手が抜けますが、国学院大は今年の往路メンバーが全員残ります。彼らを来年の箱根駅伝でもそのまま使うのか、それとも復路にたくさん使った4年生が抜けるので総合的に組み立て直していくのか、方針が気になります。
神屋氏は来年の国学院大を面白い存在だと評する
神屋氏は来年の国学院大を面白い存在だと評する【写真:森田直樹/アフロスポーツ】
 また、5区で区間新記録をマークした浦野雄平選手が来年、もう1度5区にいくのかどうかも気になります。例えば今年の法政大で言えば、去年6区で区間3位と好走した佐藤敏也選手を1区に回してきました。彼が8月の金栗記念熊日30キロロードレースでかなり良い走り(4位)をしていたので、代わりの山の要員をつくって佐藤選手を1区に回すという形です。

 国学院大もこれと同様に、例えば5区をしっかり走れる選手を養成して浦野選手を2区に回し、今回2区を区間7位で走った土方(英和)選手を9区にし、1区10位だった藤木(宏太)選手を復路の7区に回す。そうすれば、その1区を走る選手は新たにつくればよくて、さらに6、8、10区をつくれば総合3位以内を目指せるチームができる……といった発想もできます。さらなるステップアップを狙うには、今年の往路の戦いだけで「良かった」ではなく、「今度は総合3位を目指します」といった目標のつくり方もあると思うんです。

 また、今回の東洋大のように往路は(前回のメンバーを)そのまま残し、復路は卒業して抜けた選手の分を新たに育成して、初出場の選手ばかりで勝負するという方法もあるでしょう。今後については、去年の(方針の)ままでよりレベルアップしていく、もしくは大きく変えて総合的に育てていくといった方針が考えられます。

――監督は来年の箱根駅伝の区間配置を見据えながら、選手の特性や走力と、チーム全体の方針とをすり合わせて選手を育成するのですか?

 その選手の適性や希望、次に入ってくる新入生や今いる控え選手たちの状態などを考えながらパズルのように組み合わせていきます。これは監督に経験や発想がないとできません。学生同士で話し合っても見えてこない部分だと思います。

 例えば青山学院大であれば、今回5区の竹石尚人選手がいまいちでした(区間13位)。来年の箱根で「もう1回リベンジだ!」ということもできますが、そもそも竹石選手は出雲駅伝でアンカーを務めるほどの実力者なので、1人で淡々と走る9区に回すという手があります。さらに、(8区区間2位の)飯田貴之選手が「5区を走りたかった」と言っていたので、来年は飯田選手を5区に回し、9区を好走した吉田圭太選手を2区へ回す。(10区区間2位の)鈴木塁人選手は3区にして、今年区間新記録をマークした森田歩希選手の役割を担ってもらう、といった形です。

 今後体制が変わる大学もあるかもしれませんが、変わらないところは今年の反省を来年にどう生かすか、箱根が終わったその日から(今後の方針を)練って、それを選手に伝えて一から一緒にチームをつくる。監督やコーチ達の戦いは今この瞬間から始まっているのだと思います。

選手を丁寧にサポートするチームが結果を出している

指導方は時代に合わせて変わってきた。写真は東海大の両角監督(左から2番目)
指導方は時代に合わせて変わってきた。写真は東海大の両角監督(左から2番目)【写真:西村尚己/アフロスポーツ】
――最近の選手育成には何か傾向があるのでしょうか?

 われわれの時代はとにかく距離を踏んで練習を多くして、ペース配分を体で覚えるというやり方でした。徹底的に走り込んでロスをなくして失速しない選手を育てる。強烈な練習をする中で、切磋琢磨(せっさたくま)し、淘汰(とうた)されて生き残った選手が強いと。

 でも今の指導者の育成は適材適所、一人一人の選手の個性や特性を見ながら、その子に合った育成方法を考えて、助言を送ります。本人もそれに合った体や心のつくり方をしていきます。なので、闇雲に練習をするわけでもありませんし、時計を使えばとにかく距離を踏んでペース配分を(体に)覚えさせるといった必要もないわけです。シューズ選びもそうですが、自分に合わせた練習をしていけばいいのだと思います。

 その中で「自分はハーフに向いているから長い距離をしっかりとやっていこう」とか「トラック型なのでスピードを生かしてやっていこう」という個人の発想があると思います。それをチーム全体の色に染めるのか、それとも5000メートルや1万メートルのスペシャリストを育てていくのか。長い距離を徹底的に走れる選手は長距離を走らせるなどして分けていくといった育成の仕方もあると思います。

 全体を見ると1万メートルのタイムがすごく上がっていますよね。1万メートルとハーフ中心に育てていくのが今の主流なのかなと思います。5000メートルはそこまですごく上がっているというわけではありません。どちらにせよ私が現役の頃とは同じ「走り込み」でも意味が違ってきているのでしょう。

 最近は指導が非常に丁寧になってきました。監督以下コーチがいて栄養士やトレーナーもいて、選手を丁寧にサポートして強化しているチームがうまく結果を出している感じがします。
選手を知ると箱根はもっと楽しめる

――今回、箱根駅伝を見て陸上熱が盛り上がっている人もいるかと思います。今後も続くロードやトラックシーズンの楽しみ方を教えてください。

 まず今回の箱根で興味を持った選手が出る試合をチェックしてみてください。各大学のホームページもありますし、今回総合優勝した東海大の選手をはじめ、ツイッターなどのSNSをやっている選手もたくさんいます。彼らの発言を知って、興味を持ち続けていくというのもひとつの方法だと思います。

 また、今回日本大が「関東インカレ枠」で箱根駅伝に出場しました。この枠を獲得できたのは、日本大の短距離陣、フィールド陣の活躍があったからです。優勝した東海大は短距離も強い。(北京五輪銀メダリストの)末續慎吾選手を輩出するなど、名門中の名門です。

 箱根駅伝で大学名を知り、「(彼らの陸上部は)他にどのような活動をやっているのだろう?」と調べた先に、「ああ、東海大は短距離も強いんだ」と見ていただけたら面白いのではないでしょうか。館澤選手の1500メートルでの挑戦や、阪口選手の3000メートル障害でのチャレンジも、その中にあると思います。青山学院大は昔から女子の短距離が強いチームで、OGには短距離のスター選手がたくさんいます。「ここの大学の選手はたくさん実業団に行ってマラソンでも活躍しているな」「短距離選手もたくさんいるんだ」といったように見ていただくと、面白さが広がるのではないかと思います。

――来年の箱根駅伝まで、いろいろな形で選手の活躍が楽しめますね。

 箱根駅伝から市民ランナーになった人もたくさんいます。市民ランナーとして活動している過去のスター選手でもいいですし、知っている人を探してみると、一緒に走るチャンスもたくさんあると思います。これで陸上に興味を持って走り始める子どもたちがたくさん出てきたらいいなと思いますし、大人でも「ちょっと運動しようかな」という人が少しでも増えたら、よりうれしいですね。

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