<"命"を考える>  「女性にAED」はセクハラ? 高校生ら対象の調査で男女格差、パッド装着時に抵抗感か

解決案: 「バスタオル(水や金属なし)をかけるなどしても問題はない」
AED バスタオルかける

( 重要な配慮も: AEDの普及を推進する日本AED財団は「胸部に水や金属があるといけないので、一般的な指導として、『服を脱がせなさい』という言い方になる。完全に服を取り除く必要もなく、AEDパッドを貼ったうえで、バスタオルをかけるなどしても問題はない」とする。)


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 突然の心停止時の救命に用いられる自動体外式除細動器(AED)をめぐり、高校生らを対象とした調査で、女子が男子に比べてAEDによる措置を受けた割合が低いというショッキングな調査結果が出た。女性への処置の際に体に触れたり服を脱がせたりする行為が「セクハラやわいせつ行為になりかねない」との議論があり、使用を躊躇(ちゅうちょ)しているとの見方もある。一刻を争う救命の現場でセクハラになる恐れがあるのだろうか。


 AEDは、突然の心停止が起きた場合、2枚の電極パッドを胸部の右上と左下に貼り、効果的に電気ショックを与えたり、やけどなどを避けたりするうえでも上半身の衣服などを取り除き、胸をはだける必要があるとされる。

 厚労省医政局地域医療計画課によると、AEDの設置台数は、2017年末時点で全国で推定約52万台にのぼる。

 京大、阪大、大妻女子大などの研究グループは08年4月~15年末までの期間、学校内で非外傷性の心停止を起こした小中高・高専生232人を対象に、周囲の人から、どれほどの割合の傷病者が胸部圧迫やAEDパッドを装着するなど救命処置を受けたかを調査した。

 調査によると、心肺蘇生(そせい)全体では、男女比に大きな比率の差はなかった。だが、このうちAEDパッドの装着についてみると、小中学生では男女間に大差はみられなかったが、高校生と高専生では男性が83・2%だったのに対し、女性が55・6%と低かった。年齢が高くなるほど、男女格差が出てくることが分かる。

 ■ツイッターには「犯罪」

 共同研究者の1人で、大妻女子大学家政学部食物学科公衆衛生学研究室の清原康介専任講師は「推測になるが、高校生ぐらいになると、胸をはだけないといけないこともあり、女性に貼るには、抵抗感があるのかもしれない」とみる。

 ツイッターでは《女性へのAED使用は本人の同意がない限り犯罪!》といった趣旨の投稿まであり、物議を醸している。

 「可能な限り、男女関係なくできるようにするのが理想だが、現実問題、躊躇する人が出てくる社会的背景も理解はできる。ただ、実際いままでに女性に蘇生行為として、服を脱がせた、胸を圧したとかで訴訟になったケースはなく、躊躇しなくてもよい」と前出の清原氏。

 ■医療目的であれば正当

 AEDの普及を推進する日本AED財団は「胸部に水や金属があるといけないので、一般的な指導として、『服を脱がせなさい』という言い方になる。完全に服を取り除く必要もなく、AEDパッドを貼ったうえで、バスタオルをかけるなどしても問題はない」とする。

 また、同財団は「現状の法律の解釈でも救命に関しては、民事では訴えられる可能性は残るが、社会通念として罪に問われないという解釈をしている」と話す。

 弁護士の高橋裕樹氏も「通常は犯罪にはならない」と語る。

 「胸を触る行為などに関しても医療目的などであれば、医師以外の人でも正当業務行為として認められる。仮に疑われた場合には、救命行為の態様と必要性が問題にされるが、事実関係が明確になれば検挙されるリスクはないと考える」と解説する。

 命を救う行動にためらいは不要だ。