医者のなる選択肢: 偏差値55で「医学部に合格する人」たち、なぜか急増しているワケ 「チャンスは今」かもしれない
 



いまだ衰えを見せない「医学部人気」
世間を騒がせた医学部の不正入試事件から各大学医学部で初めての入学試験が行われた。



その倍率の変化を見ると、国公立では大きな影響は見られなかった。私立では、東京医科大学が志願者を3分の1に減らすなど、大きな影響を受けた。しかし、東京医科大学の場合は、不正によって不合格になった過年度受験生の追加合格により今年の定員数が減ったためという理由が大きい(東京医大の定員は例年75、今年は34)。

志願者が減った他の大学は、実際に女子差別等の不正行為があったために、志願者を減らしたところが多かった。

一方、不正を行っていなかった大学では、志願者数を増やしているところもあり、トータルで見れば、あれほどのネガティブなスキャンダルを経てもなお、医学部人気は衰えていないことを証明する結果となった。

むしろ、女子受験生への差別的扱いが改善される期待感から、多くの大学で女子受験生数を増やす結果になった。(そして実際に女子合格率は大幅に向上した)。今後は、女子の受験者数が大きく増えることも想定されることから、今後も厳しい日本の医学部受験競争は続くと見るのが正しいだろう。

かように、今もなお日本の医学部受験競争は熾烈を極めている。

とくに私立医学部の合格率は2%台。国公立医学部では、1次試験=センター試験で受験者数が大幅に絞られるため、名目上の競争率が私立よりずっと低くなるが、その国公立医学部と私立を合わせても9%ほどの合格率にしかならない。

偏差値65あってギリギリどこかの私大医学部に合格できるかどうかというのが現状だ。

普通は「1日8~10時間×1~2年」の勉強が必要だが…
医師という魅力的なキャリアにつくためとはいえ、こんな厳しい受験競争に勝つために、いったい、どれほどの勉強をすれば良いのだろう。



もちろん個人差はあるが、医学部受験予備校の講師をしていた私の感覚では、高校3年分のカリキュラムを全て終えた後で、少なくとも医学部受験対策だけで1日8~10時間の勉強を1~2年は続ける必要がある。

現役合格をしたければ、少なくとも高校2年生までに高校3年生までの勉強を全て終えておくことが前提だ。

そして高3の初めから受験勉強を始め、サラリーマンと同じ、1日8時間~10時間の仕事に真正面から取り組むイメージである。

それにサラリーマンと違って土日祝の休みはない。スタートが遅かったり、少しでも手を抜いたりすればその時点で浪人が確定する。勉強が苦手な学生はかなり難しい。

しかも、医師国家試験合格のための、医学に関する勉強ならばともかく、その前段階の医学部に入るためだけの勉強である。そこに一生に一度しかない貴重な高校生活を犠牲にして、心身ともに疲弊してまで受験勉強に全精力を注ぎ込むのは、いかがなものかという意見もあると思う。

もう少し簡単に医師になる方法は他にないのだろうか。

「海外大学医学部に行く」という選択肢
いや、日本の厳しすぎる医学部受験をどうしても避けたいならば、よい方法がある。それは、チェコ、ハンガリーといった東ヨーロッパの名門大学の医学部を経由して、日本の医師国家試験を受け、医師になるという道だ。

東欧の医学部に合格するには、英語だけは一定以上の力が必要だが、理数系科目は、日本の偏差値55程度の学力があれば合格できるのだ。この方法については過去の寄稿『日本の医学部に合格せずとも、優秀な医者になる「裏技」があった』でも紹介したが、このルートは現在、もはや「裏」ではない、堂々たる表街道になりつつある。



近代医学の発祥地、ヨーロッパには、旧共産圏(東欧)も含む、数多くの伝統ある医学部が存在する。

それらの医学部は、基礎医学から応用、臨床まで、非常にレベルの高い教育を、自国民はもちろんのこと、EU諸国、中東、アフリカ、アジア等の学生に向けて開放している。各国の母語ではなく英語で授業を行う外国人向けのコースである。

東欧の医学部の授業料は基本的には無償であるが、外国人向けのコースは、無償とはいかずとも、安価な授業料で入学することができる。

しかも、東欧の医学教育の水準は、教育の質・量ともに極めて優れており、施設、スタッフ、カリキュラム、いずれをとっても、日本の医学部に引けを取らない。それどころか、日本を遥かに凌駕する高水準の教育が行われているところもある。

そのような高水準の教育を提供する東欧諸国の医学部は、近年、日本の厚労省や文科省のお墨付きを得ている。

というのも、かつては海外の医学部を卒業しても日本の医師免許を持つのは大変だったのだが、今は卒業さえできれば、ストレートで日本の医師国家試験(本試験)を受験することが可能になったのだ。

それなら、日本の医学部のような超高倍率・超難関の試験をパスする必要もない。

厚労省も「お墨付き」
つまり、入学前の受験勉強でそれほど苦労することなく、超高額な学費の捻出に悩まされることもない。とにかく、まず、さらりと医学部に入ってしまおう、そして、学術的世界の共通言語でもある英語で医療を学びながら、有能な国際派医師を目指そう、このように考える「賢い受験生」が急激に増えているのだ。

以下、そんな医師への公然たる近道となった「ヨーロッパ医科大学」(ハンガリーやチェコ、スロバキアといった東欧諸国の医科大学・医学部の総称)へのアプローチ方法と、日本へ帰国後の、国家試験受験の実情を具体的かつ詳細に紹介しよう。



かつては、わざわざ海外の医学部を卒業して、日本の医師になろうという人は、ほとんどいなかった。親の仕事の都合等で、たまたま進学先がアメリカやヨーロッパの医学部に行った人が、帰国時に合わせて医師国家試験(以下、国試と略す)の受験資格を得るための審査を申請することは、年に1、2名程度あったようだ。

日本の医学部を卒業した学生は誰でも国試の受験資格を得られるが、海外の医学部を卒業しても誰もが国試の受験資格を得られるわけではない。海外の医学部を卒業した「医師候補者」については、ルール上、厚労省が国家試験の受験資格を審査することになっている。

この事前審査をパスできなければ、国試の「本試験」は受けられず、国試の前段階である「予備試験」から受験し、国内の大学病院等で臨床研修を受けなければならない。それは、医学部5・6年生でやる研修と同じことを再度やり直すということだ。

以前はこの審査がかなり厳しかった。卒業した海外医学部のカリキュラムや教授陣、スタッフ数、病院数等について、詳細に渡るデータを申請書類に記入して提出する必要があり、その申請書類が厚労省で精査され、日本の医学部卒業生と同程度のレベルに達しているかどうかが見極められるのだ。

書類作成やカリキュラム等の事前調査には膨大な時間とコストがかかり、かつ審査が通るかどうかもわからない状況だったため、こんな不透明なルートをあえて選ぼうとする医師志望者は、ほとんど皆無であった。

元厚生労働省職員が上梓した『海外の医学部を卒業して日本で医師になる方法』(エール出版社, 2012年) を見ると、膨大な分量にのぼる書類申請の方法や、厚生労働省との「戦い方」までが記載されていて、本当に大変な作業であったことが伺われる。

しかし、現在は、こういった煩瑣で不透明な審査を自分でする必要は一切なくなったと思っていい。

海外医学部進学への仕組みを作ったHMU
東京に本部のある「ハンガリー医科大学事務局」「チェコ医科大学事務局」「海外医科大学事務局」等々の海外医学部留学支援団体が、東欧医学部を経由して医師になる学生の便宜のために、あらかじめ、海外留学生受け入れに熱心で信頼度が高い複数の医科大学を選定し、厚労省の事前審査で「文句なしの合格」を取り付けているのだ。

つまり、これらの団体が推薦する大学医学部に進学すれば、帰国後に日本の国試は受けられる。東欧を経由してほぼ自動的に医師になれるための仕組みは、このようにして、すでに完成されているのである。

こういった仕組みづくりの先鞭をつけたのは、「ハンガリー医科大学事務局」(HMU)の専務理事・石倉秀哉氏である。石倉氏は、高度な医療人材が国際的に往来する将来を見据えて、独自に東欧医学部ルートを発掘、厚労省と折衝を敢行し、医師への「東欧ルート」を確立させた。



HMU は、2006年にハンガリーの医学部へ記念すべき第1期生を送り出だす。それまでは、包括的な事前審査によって特定の海外医学部卒業者に国試受験資格が認められる例はなかった。もっと正確に言えば、そのような医学部を認める仕組み自体が存在していなかったのだ。

海外の医学部を卒業した学生が、日本の医師になるために、日本で国試を受ける場合は、卒業後に「書類を出してもらいそれを見て判断する」という状況であった。厚労省は、海外医学部を卒業した留学生を、定期的かつ安定的に日本に受け入れるという想定をしていなかったのだ。

海外医学部への留学生の一括審査という、厚労省も想定すらしていなかった新しいシステムが認められるには、さぞかし長年に渡るタフな交渉が必要だったのではないかと、多くの読者は思うだろう。

ところが、HMUの石倉専務理事による厚労省との折衝は、意外にも、極めてスムーズに進行した。石倉専務が折衝を行なったのは、ハンガリーへの第一期生が現地に渡航する半年前、2005年の秋だった。

ちょうど、グローバリズムの進展に棹さして、規制改革を進めていた小泉純一郎政権の最終期(第3次小泉内閣)で、保守的な厚労省内部にも、「国際化の波には抗えない」「規制緩和に向け、今後は外国人医師に向けても永住権などを必須とせずに、云々」といった流れがあった。

厚労省側の担当官が、東大医学部とハーバード大医学を卒業した医官で、医学教育に理解があったことも幸いし、たった1週間ほどで、このプログラムを始めても良いという判断が示されたという。

しかし、事前審査がこれほどスムーズにいった最大の要因は、時の運があったから、という理由だけではない。なんと言っても、ハンガリーの各医科大学が、文句のつけようのないほど優れているという事実があったためだ。

日本の医学部との違いは「1年間のタイムラグ」だけ
事前審査に要する書類には、現地大学の施設、施設面積、附属病院数、それぞれの診療科になにがあるか、教授・准教授は何名いるか、看護師は何名いるかとか、外来対応医は何名か、入院のベッド数は…等々、微に入り細を穿つと形容すべき煩瑣なデータが必要になる。

それら一つ一つの審査ポイントが、すべて日本基準を凌駕していたのである。

日本からヨーロッパ医学部を経由して日本の医師になるには、まず、日本の医学部受験に比べ遥かに簡単な入学試験を受け、その秋にハンガリー国立医学部などの医学部に入学し、卒業した年に申請書類を厚労省に提出、個別の審査を経て、問題がなければ2月の国試を日本の医学部生と一緒に受験する。



つまり、日本の医学部に行くのと同じ年限+1年間のタイムラグだけ許容できれば、東欧医学部を経由することのデメリットはほとんど存在しない。

もちろん、ハンガリーやチェコの医科大学・医学部のレベルがどれほど優秀であっても、それらの医学部に入った学生の多くが、実際には日本で医師になれないというのでは「話が違う」となってしまう。せっかく、確立されてきた東欧ルートも、有名無実なものとして徐々に評判を落としてしまうだろう。

しかし、これは杞憂である。ハンガリー等の医学部を卒業した学生の国家試験合格実績は、日本国内のそれに劣らないほど高く、しかも、継続的に実績は積み重ねられているのだ。

具体的に見てみよう。

過去の日本における医師国家試験の結果を見ると、平成最後の年、31年の国試合格率は、日本の各医学部平均で約89.0%(新卒92.4%、既卒56.8%)である。

日本の医学部の一部では、国家試験合格率を下げないよう、5年生・6年生への進級を厳しくして、国試に受かるレベルに達しない学生を留年させているケース(内部調整)もあり、そのうちのどれくらいの人がドロップ・アウトするかの詳細は不明だが、概ね9割の日本の医学部生が医師免許を手にしていることは確実である。

では、肝心の「東欧ルート」での国試合格率はどうか。

2006年にハンガリー医科大学の第一期生が現地に赴いてから、最初の医師国家試験合格者が出たのは、2014年だった。その年の第1期生は7名だったが、うち6名が日本に帰国して国試本試験を受験し、そのうちの4名が合格した。1名はヨーロッパで医師になり、2名は国試不合格だったが、翌年の国試に合格している。

つまり、卒業にたどりついた全員が医師になれたのである。

2018年(第6期生)までで、88名がハンガリーの医学部を卒業し、71名が合格している。合格率は80.7%だ。

日本の私立大学医学部平均86.59%(過去3年間平均)、国公立大学医学部平均95.21%(過去3年間平均)と比べると、やや見劣りがするが、合格率が80%を下回る日本の医学部が7校もあることを考えると、かなり善戦していると考えてよいのではないか。

受験の超エリート揃いの日本の医学部生と、入試の段階では基礎レベルの試験しか課されていない普通レベルの受験生が、ほぼ同じ水準で医師国家試験に合格しているのである。ハンガリー医学部には、日本の工業高校出身で、2年間新聞配達をやっていた学生が入学し、ストレートで医師になった事例もある。

東欧医学部の入試難易度は高くない
ところで、日本の医学部定員を増加させると、「学生の質が下がる」と言って、医学部定員増加に反対する医師や教授がいる。彼らは、「医学部定員増加は入試難易度の低下につながり、入試難易度の低下によって学力の足りない(つまり国家試験に受かりそうにない)学生が増える」というロジックで医学部定員増に反対し続けている。

しかし、このロジックは、ハンガリーやチェコといった「入試難易度の低い」東欧ルートの医学部生によって、見事に反証されてしまった。彼らは、簡単な大学入試しか経験していないが、英語や東欧語といった外国語の壁を乗り越えながら、日本の医学部卒とほぼ同等の国試合格率を叩き出しているのだから。

「日本の大学は、入るのが難しくて、出るのが簡単。欧米は、入るのが簡単で、出るのが難しい」と、言われることは多い。では、実際にヨーロッパ医学部の場合はどうだろうか。



たとえば、ハンガリー国立大学では、ハンガリーの医学部の教授陣がつくった入学試験(物理、化学、生物から2科目)を受験することになっている。その問題はすべて基礎的なもので、日本の医学部入試とは比較にならないほど易しい。

一概には比較できないが、日本の「物理基礎」「化学基礎」「生物基礎」をしっかりやっておけば、8割取れる内容とのことだ。ハンガリー医科大学の合格ラインは、6割と設定されているので、高校の勉強を、すこし真剣にやるくらいの学力で、学科試験はクリアできるということになる。

その他の試験科目は、英語と面接だ。その他、出願時に書くことになる「志望理由書」というエッセイがある。英語は、ネイティブスピーカーによる面接試験もある。英語がペラペラである必要はないが、準備段階を経て、英語での授業について行けるだけの学力は必要になると考えてよいだろう。

また、面接では、しっかりとした医師への思いがあるか、異国の地で勉強をやりきる気概があるか、基本的なことを理解できる地頭と地道さはあるか、このような点が審査される。

日本の医学部入試と比べたら、その難易度は、雲泥の差だということがおわかりだろうか。それでも、東欧ルートの帰国者全員が国家試験を受験でき、(浪人も含め)そのほとんどが日本で医師になることができる。しかも、日本人医師よりも希少価値のある「英語が得意で国際的な医師」として、デビューができるのだ。

現地生活に行き詰まる人は「皆無」
いいことだらけのように聞こえるかもしれないが、現地での脱落者はいないのか。もちろん、そんなことはない。医学部の勉強は、日本もヨーロッパも、同様に厳しい。遊んでいる暇はほとんどない。

しかし、その勉強の辛さは、日本の場合とほぼ同等である。それは、薬理学ではたくさんの薬の名前を暗記しなければならないとか、筋肉の名前が覚えられないとか、そういったレベルの辛さであって、生活自体に苦労するということはないようだ。

大学生活自体が大変でドロップ・アウトしてしまう人は皆無であるという。地道な学習をいとわない、コツコツ型の努力家であればついていくことはできる。

万が一、生活に困った場合でも、現地の日本事務局があるから安心だ。日本人スタッフもいる現地事務局で、いつでも生活や学業の相談が可能だ。しかし、現地での生活自体に行き詰まってしまうという人は、まずいない。

2014年に4名の国家試験合格という実績を出したハンガリーの各医科大学は、その後、急激に人気を集めるようになった。現在の入学倍率は3~4倍で、ここ近年も増え続けている。

簡単な試験さえクリアできれば、医学部に入れる。そして、卒業後は、日本の医師国家試験の本試験が受けられる。(帰国後の審査で予備試験に回される人は現在まで皆無である)。

このような例が周知の事実となると、今後は、一層の人気上昇が予想される。日本の医学部受験に受かる自信はないが、なんとかして医師になりたいという人にとっては、「チャンスは今」かもしれない。