量子コンピューター 新国家戦略案 ベンチャー10社以上創設へ
量子コンピューター技術競争


   スーパーコンピューターをはるかにしのぐ「量子コンピューター」など、量子技術の国際的な開発競争が激化する中、政府は新たな国家戦略の案を取りまとめ、今後10年以内を目途に、量子技術をもとにしたベンチャー企業を10社以上創設するなどとしています。

量子とよばれる極めて小さな物質の世界で起こる特殊な物理現象を活用し、現在のスーパーコンピューターをはるかにしのぐ「量子コンピュータ-」や、解読不可能とされる暗号「量子暗号」など新しい情報通信技術が実現すると期待されています。

世界各国で量子技術の開発競争が激化する中、政府は、産学官の総力を結集して開発に取り組む必要があるとして、年内にも決定する新たな国家戦略の案を取りまとめました。

それによりますと、量子コンピューターや量子暗号など4つの重点分野について、今後20年程度の間に官民で推進する取り組みの行程表を作成し、政府直轄のプロジェクトなどとして、重点的な財政支援を行うとしています。

また今後5年間で、研究開発の拠点となる研究機関や大学を5か所以上指定し、人材や技術の集積を目指すとともに、10年以内を目途に、量子技術をもとにしたベンチャー企業を10社以上創設すると明記しています。

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2019年10月24日

スパコンで1万年かかる計算を3分20秒で? 量子コンピューター

大手IT企業「グーグル」の研究者などのチームは、次世代のコンピューターとして注目される量子コンピューターが、従来のコンピューターをはるかに上回る性能を持つことを実証したとする論文を発表し、複雑な計算が必要とされる医薬品の合成や、経済・金融分野への応用など、実用化に向けた期待が高まっています。


アメリカの大手IT企業「グーグル」などの研究チームは、23日付けのイギリスの科学雑誌、「ネイチャー」に、量子コンピューターについての論文を掲載しました。

それによりますと、実験用に開発したプロセッサーを使って、乱数を生成する問題を計算させたところ、従来のコンピューターではおよそ1万年かかるという結果が出ましたが、量子コンピューターは3分20秒で計算を終わらせたということです。

量子コンピューターは、理論的には従来のコンピューターでは不可能な計算ができるとされていましたが、実証されたのは今回の研究が初めてだとみられ、グーグルは、実用化に向けた「大きな飛躍だ」としています。

将来的には、より複雑な計算が必要な医薬品の合成や、経済や金融分野の予測などへの応用が期待されていて、開発競争が今後、さらに激しくなりそうです。
「コンピューターの世界の新たな可能性開いた」
量子コンピューターは、従来のコンピューターとは異なる仕組みに基づいて計算を行います。

従来のコンピューターは、「0」または「1」のいずれかの状態の組み合わせで計算します。

これに対し、量子コンピューターは量子力学の原理に基づき、「0でも1でもある」という「重ね合わせ」の状態も利用。
より多くの情報を扱うことができて、理論上は従来のコンピューターをはるかに超える性能を実現できるとされてきました。

しかし、実際に計算を行える量子コンピューターを開発するには、技術的に解決しなくてはならない問題が数多くあり、従来のコンピューターにはできない計算が本当にできるのかは証明されていませんでした。

今回の研究は、量子コンピューターでなくてはとけない問題があることを実際に示し、その可能性を実証しました。

マサチューセッツ工科大学のコンピューターの専門家は「ネイチャー」に寄せた記事で、初めて飛行機を飛行させたライト兄弟の業績になぞらえて「初めて量子コンピューターの超越性が示された」と評価しています。

グーグルのサンダー・ピチャイCEOは「今回の成果はコンピューターの世界の新たな可能性を開いた」とコメントしています。
一方で、今回の発表に関してはIBMなど一部の研究者から、検証の方法に疑義があがっているほか、計算で起きるエラーの訂正の手法や、新たな記録媒体の開発など、解決しなくてはならない課題が多くあり、従来のコンピューターのように一般に普及するまでには、まだ時間がかかる見通しです。
“暗号”めぐる不安も “暗号”めぐる不安も
不安もあります。
それが、インターネットなどあらゆる通信の分野で不可欠となっている暗号の技術をめぐってです。
暗号の技術は、どんどん複雑化していますが、桁違いの計算能力がある量子コンピューターが完成するといまの暗号は解かれてしまうと指摘されているのです。
暗号資産の価格急落 その背景は…
論文が発表された23日、ビットコインなどのいわゆる仮想通貨=暗号資産の価格が一時、10%以上、急落しました。

背景には、
▽フェイスブックが計画していた暗号資産「リブラ」の発行を先送りする方針を示したことに加え、
▽量子コンピューターの開発によって、暗号資産を支える暗号技術が揺るがされるのではないかという懸念が広がったためとの見方が出ています。

現在、インターネットなどの通信で使われている暗号技術は、巨大な数の素因数分解など、従来のコンピューターでは計算するのに現実的ではないほどの長い時間がかかる問題を応用して作られています。

しかし、量子コンピューターがこうした計算を短い時間でとけるようになれば、暗号が解読される危険性が高まると指摘されています。

計算速度を飛躍的に向上させる量子コンピューターの出現は、私たちの生活をより便利にしてくれる可能性がある一方で、情報や通信の安全に対する脅威ともなり得ます。
このため、量子コンピューターでも解読できない「耐量子コンピューター暗号」の技術開発も進められています。
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2019年11月13日

次世代の情報通信の核 量子技術 産官学の支援団体設立


驚異的な計算能力を持つ「量子コンピューター」や絶対に解読できない暗合技術「量子暗号」など次世代の情報通信の核とされる「量子」を活用した技術を高めようと企業や国の研究機関などが共同で実用化に向けた研究を支援する団体を設立しました。

新たに設立されたのは「量子ICTフォーラム」で、大手電機メーカーなど19社と大学や国の研究所など16の研究機関が参加しています。

量子は電子や光子などの極めて小さな粒子で、量子の世界で起こる特殊な物理現象を活用することで現在のスーパーコンピューターをはるかにしのぐ「量子コンピュータ-」や解読が不可能な暗号「量子暗号」など新しい情報通信技術が実現すると期待されています。

こうした技術は未来社会の核となるとされ、現在、アメリカや中国をはじめ世界各国が実用化に向け、しれつな開発競争を繰り広げているということで、フォーラムでは今後、最新の研究成果を企業に技術移転できるよう情報共有の場を設けたり、技術を国際標準化するための戦略を練ったりするということです。

フォーラムの代表理事を務める北海道大学の富田章久教授は「日本は基礎研究では世界をリードしてきたが研究開発は5年遅れれば手遅れになる。国際競争に打ち勝つため、産官学の垣根を越えて情報や戦略を共有し、支援していきたい」と話していました。

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