岡山県内の畜産農家に逆風 日米貿易協定発効へ 牛肉値下げも



 米国産の一部農産物の関税を撤廃、削減して市場開放する日米貿易協定が来年1月1日に発効する。安い輸入品との競争で国産の価格が押し下げられる可能性があり、岡山県内では特に牛肉を生産する畜産農家が逆風にさらされる。一部スーパーでは、早くも牛肉の値下げを検討する動きが出ている。

 米国産牛肉の関税は38・5%が発効直後に26・6%になり、最終的に9%まで下がる。

 総合スーパーの「イオン」などを運営するイオンリテール(千葉市)は1月中に米国産牛肉の値引きキャンペーンを予定している。「ステーキ肉やすき焼き肉を関税引き下げ分を反映した価格で販売する」と同社中四国カンパニー(広島市)。天満屋ハピータウンなどを展開する天満屋ストア(岡山市北区岡町)も「早い段階で米国産の販促フェアを実施したい」とする。

 精肉のうち輸入牛が3割を占める食品スーパー経営のハローズ(本部・岡山県早島町)は、中長期的に影響が出るとみる。担当者は「すぐに米国産を増やすことは考えていないが、消費者の反応次第では国産との構成比率を見直したり、国産を値下げしたりすることはあり得る」と話す。

 牛肉の日本への輸入量は年間60万トンを超え、米国はシェア4割を握る大口輸入元。岡山県の試算では、日米貿易協定発効によって農林水産物全体で年間最大11億円の減産が見込まれ、その6割に当たる6億7100万円を牛肉が占める。

 協定では日本の米国向け牛肉の低関税枠を広げることも決まった。輸出環境が有利になることから、国は国内での減産分を海外への輸出拡大で取り戻すよう求めるが、畜産業界の受け止め方は複雑だ。

 輸出にはそれぞれ相手国に応じた衛生基準を満たす必要がある。米国向けに対応できる食肉処理施設は兵庫、宮崎、鹿児島県など全国13施設にとどまり、中四国地方はゼロ。岡山県畜産協会は「輸送コストなどを考えると現実的ではない」と指摘する。

 ただ、輸入牛肉との競争激化に加え、人口減少による国内需要の先細りに危機感を抱く農家も少なくない。今年から台湾、シンガポールへ和牛の輸出を始めた伍協牧場(同県奈義町広岡)は、海外へのアピールを強化するため農畜産物の安全性に関する認証の取得を検討しており、今後も輸出に力を入れていく方針だ。

 国富雄大代表理事は「国内だけではじり貧。できれば米国向けにも出したいが、各国が求める生産管理のルールを農家単独でクリアするのは難しい」と市場開拓に向けた支援を訴える。

 日米貿易協定 対日貿易赤字の削減を狙うトランプ政権による日本車への追加関税を回避するため、9月に日米両国が最終合意した。来年1月1日の発効後は米国産の牛豚肉、ワイン、チーズなどの関税が大きく下がり、消費者にはメリットがあるが、農家には安い海外産品との価格競争激化が懸念される。