京都 「京都の知」 感動させた山中教授の言葉の共感力  「コロナとの闘いは長いマラソン」批判を覚悟で「これは1年、”最低でも1年は一緒に頑張りましょう”と」

iPs 山中伸弥 京都大学教授


   「私、感動してね。涙出てきた。テレビで見てて・・・」
 アッコこと和田アキ子さんが、自ら司会を務めるTBS『アッコにおまかせ!」の生放送の中で明かした。

(和田アキ子さん)
「この間、他局ですけどNHKでiPS細胞の山中教授がインタビューやをやっていらして
『自分はジャンルが違うし、口を挟むことではないけれどももっとみなさん真剣に考えていただきたい』と。 
で『約1年近くコロナ対策に意識を向けてください。 
気持ちとしてはバッシングもあるでしょうけど、半年くらいで(状況が)よくなればいいと僕は思っています』と・・・」
 その後でこう発言したのだ。

 「私、感動してね。涙出てきた。テレビで見てて・・・」

 実は筆者も和田アキ子さんが見ていたというNHKの放送をたまたま見ていた。

 新型コロナで重苦しい雰囲気が広がる中で心の琴線に響く”いい放送”だと感じた。

 その後でこの放送を見たという知人からもNHKが「すごくよかった」というメッセージを受け取った。

 そして和田アキ子さんのこの言葉だ。

 共感の輪が静かに広がっているのではないのか。

 だとすればこれは伝えておくべき大事な出来事ではないか。

 いまの時期にテレビが何を伝えるべきなのか。その課題を日々研究している筆者にとっては、視聴者が共感したニュースとして記録しておくべきと考えて以下、記しておく。

  和田アキ子さんが感動したという番組は3月27日(金)のNHK『ニュースウォッチ9』だ。

 NHKの看板ニュース番組の一つだ。

 この日、連日増え続ける新型コロナの感染者の問題や首都圏の知事たちが週末に呼びかけた「外出自粛」や経済的な打撃などについて報道した後で、サブキャスターを務める桑子真帆アナが自分で取材した内容を紹介するコーナーを伝えた。

 ちなみに桑子アナは朝のニュース番組『おはよう日本』への異動が決まっていて『ニュースウォッチ9』はこの夜が最後の出演だった。  

(桑子真帆キャスター)
「手強いウィルスに私たちはどう立ち向かっていけばいいのか。 
そのヒントを求めてきょうこの方に話を聞きました。 
こちら京都大学の山中伸弥教授です。 
いま多くの人に伝えたいという強い思いを伝えてくれました」
 この言葉の後で桑子アナが京都大学iPS細胞研究所に赴き、山中教授と対面するVTRが続く。

 桑子アナはマスク着用で顔の半分を覆い、対する山中教授はマスクなしという一見違和感がある形の対面だったが、これも二人のやりとりで理由が明かされる。

 互いに挨拶の言葉を述べた後で桑子アナが釈明した。

(桑子真帆キャスター)
「初対面でこのマスクでの挨拶ということで失礼をお許しください」

(山中伸弥教授) 
「とんでもございません」
 以下、桑子アナが読むナレーションと彼女の質問、山中教授のインタビューを文字にしていく。

(ナレーション)
「インタビューの冒頭、山中さんはこう切り出しました」

(山中教授)
「僕もマスクした方がいいと思うんですが、きょうは僕がいま新型コロナウィルスに対して思っている危機感。
であったり、いろいろな思いを、せっかくこういう機会をいただきましたからできるだけたくさんの人に感じ取っていただきたいので、あえてマスクは外しましてインタビューしていただけたらと思います」
 VTRの画面に

山中伸弥による新型コロナウィルス情報発信
出典:淡路市医師会・山中伸弥による新型コロナウィルス情報発信
というホームページ画面が映し出され、そこには「新型コロナウィルスとの闘いは短距離走ではありません」と書かかれている。

(ナレーション)
「ウィルスに関する最新の情報を伝えようと、山中さんは今月ホームページを開設しました。
情報発信を始めた動機についてこう綴っています。
[画像をブログで見る]

(桑子キャスター)
「(ホームページの文章を読み上げて)『(自分は)感染症や公衆衛生の専門家ではありません。 
しかし、国難である新型コロナウィルスに対して医学研究者として、何かできないかと考え、情報発信を始めることにしました』 
ここ(この言葉)にはどういう意識があるのでしょうか?」
(山中教授)
「本当にですね、私たち全員がふだん国というか社会に守られて生きています。 
平和なときは気づかないですが、医療であったり、福祉であったり、学校であったり、いろいろなものに本当に守っていただいて(私も)研究もできているのですが、いま、このウィルスは一人ひとり個人に対する脅威でもありますが、それ以上に社会に対する脅威ですから、本当に強い危機感を持っていますのでなんとか貢献できないか。情報が来るたびに更新しています。
 山中教授はゆっくりした口調で一つひとつの言葉を選ぶようにして話した。

(山中教授)
「それくらいですね。刻一刻といろいろな情報が集まっていて、 きのうはこうだと思っていたことが、きょうは『えっ、違うんだ』と思うこともありますから、それはすぐに変えていかないと・・・いろいろな方がこういう情報を元に判断されると思うんですね。
そのときにいちばん、1分1秒でも最新の情報を提供することが大切だと思っています」
(ナレーション)
「山中さんはこれからのウィルスとの闘いについて、こう表現しています」
(桑子キャスター)
(ホームページの言葉を読み上げて)
「『新型コロナウィルスとの短距離走ではない。1年は続く可能性のある長いマラソン』なのだと。 
この『長いマラソン』という表現をした心を教えてください」
(山中教授)
「いろいろな方がそれぞれのお仕事であるとか、やっぱり生活もかかっていますから、対策を考える必要があるんですが、そのときにこの闘いが1週間我慢したら終わるのか1か月で終わるのか1年かかるのかで対策は全然変わってくる」

 この後で山中教授は語調をやや強めて「僕はあえて批判されることは覚悟で・・・」と続けた。

 決意の末の行動だったことが伝わってくる言葉だ。

(山中教授) 
「これは1年、”最低でも1年は一緒に頑張りましょう”と」
(桑子キャスター)
「山中さんがおっしゃる力強さって、ものすごいものがあるなと感じていて、それはiPS細胞という未知のものとずっと向き合って探究して来られたその経験をみんなが知っているからその山中さんがこうおっしゃるのだったら、『あっ、そうなのかも』と(気づく効果を期待して)?」
(山中教授)
「これは発信するとなると勇気がいりますし、いろいろな方から『やめた方がいいんじゃないか』というのも当然言われます。

(桑子キャスター)
「そうですか」 

(山中教授)
「僕もですね。 
『これは1年の闘いです』と言ってますけど、心の中では半年で終わってくれたら本当にうれしいなと。 
1か月で終わってくれたら本当にうれしいなと思っています。 
ぜひ予想が外れてほしいですけれどもただ、やはりこれは備えて・・・。 
逆のパターンで、'''甘く見ていて逆にひどいことになってしまうともう取り返しがつかないことになりますから''いろいろな情報を判断するとやっぱりかなりの確率で”長期戦になる”と思っておいたほうがいい。

これが1年くらいかかったときに”想定外だった”とは全然いえない。 
いろいろな論文とかを解析した上での自分の、ある意味、仮説です。 
それが真実かどうかは歴史が証明するしかない」
(ナレーション)
「それでも山中さんはウィルスとの”うまいつきあい方”を見つけることはできると確信しています」

(山中教授)
「日本だけじゃなくて、人類がこのウィルスに試されている。 
うまく対処すれば、やっつけることはできないですが、うまくつきあえる。 
きっと1年後2年後には季節性のインフルエンザと同じくらいのつきあい方に、季節性インフルエンザよりはちょっと高齢者は気をつけたほうがいいねというような状態に1年後にはもっていけると思います。 
いつまでも続くものではない」
(桑子キャスター)
「ちょうど、きのう(3月26日)投稿されていて、私、これすごく印象に残って・・・ 
(山中教授のホームページを読み上げる) 
『新型コロナウィルスはすぐそこにいるかもしれないと自覚することが大切です。 
桜は来年も必ず帰ってきます。
もし人の命が奪われたら二度と帰ってきません』 
ものすごく強いメッセージだと感じました」
(山中教授)
「この週末、来週の週末あたり花は本当にきれいなんですが、花は、桜は必ず来年も帰ってきますから。 
いまは感染が広がって高齢者を中心に亡くなる方が増えるとその方の命は絶対に戻ってきませんので、例年のように有名なところにみんながワーッと集まって長時間滞在するというのはことしに限ってはぜひ、東京とか京都とか大阪だけじゃなくて、日本全国で我慢するべき。 
自分の安全、自分の周囲の高齢者の安全、そして社会の安全を自分で守ろうという意識をもつことが そういう意識をもつ人がどれだけ増えるかが大切だと思っています」
スタジオで有馬嘉男キャスターもしみじみと感想を述べた。

(有馬キャスター)
「『正しく、怖れよう』という冷静なメッセージ。 
しっかり伝わってきました」 

(桑子キャスター)
「まさにそうですよね。 
そして私、山中さんの覚悟を感じました。 
それは状況を伝え続けるという覚悟。 
あの、これもちろん誰もができることではないですけどその人なりの覚悟をもって行動に移す。
これは誰でもできることと思うんですよね。 
その小さな積み重ねが多くの命を守ることにつながるのだと教わった気がしました」
 山中教授が示した「覚悟」。その人なりの覚悟をもって小さな積み重ねを続けていくこと。取材した桑子アナだけでなく、有馬キャスターもそのことの重みを感じた表情に見えた。

 「伝える」という役割をもった報道の人たち。この場面を見ていたという和田アキ子さん。

 多くの人たちが新型コロナウィルスの問題で行動を起こしている。筆者の知っている分野では非正規労働者らの支援のための労働相談や生活困窮者たちの相談活動に動き出した人たちもいる。

 それぞれの立場でその人なりに「やれること」をやっていくしかない。

 山中教授の言葉は、そうした一人ひとりに勇気を鼓舞する、静かで、しかし力強いものだった。

 なお、このNHK『ニュースウォッチ9』はニュース番組なので放送は一度きり。すでに終了している。

 しかしNHKが今月から開始した配信サービス「NHKプラス」で桑子アナが伝えた山中教授の言葉についてのコーナーを視聴することはまだ可能だ。

 まだ見ていないという人はぜひ見てほしい。ニュース番組ではあまりこういう言い方をしないが、「神回」ともいえる回で見終わったら少し勇気が湧いてくること請け合いだ。ほぼすべてのテレビ番組がネットで見逃し視聴が可能になりつつある時代にこの「神回」を見ないという手はない。
iPs 山中伸弥 京都大学教授