都市封鎖より先になった大学封鎖~入学式・前期講義開始日の全国760校調査から見えたもの



 ◆3月10日時点で入学式中止は7.5%

新型コロナウイルスの影響は大学を含む教育業界にも広がっています。

3月10日に入学式の中止状況について、全国743校を調査したところ、中止を決めた大学が61.4%ありました。

卒業式は中止か親お断わりが92.2%~大学の卒業式743校を全調査(Yahoo!ニュース個人記事・2020年3月10日配信)

この時点で、入学式の中止を決めていたのは7.5%でした。
その後、入学式中止と前期講義開始の延期を決める大学が続出します。
そこで、入学式の実施可否と前期講義の実施・延期状況について、全国760校の4年制大学を調査しました。

調査方法
・2020年3月30日~4月5日に全国の4年制大学760校のホームページ確認による調査
・一部大学は4月5日までの調査後に改めて確認(対応の変化等が認められたため)
・中止・延期の日程については、4月5日までに確認した時点で確定(またはその時点で最新のもの)をその日程とした
・確定した時期・内容については各大学サイトを参照

◆入学式は77.6%が中止、親OKは0.9%

まずは入学式から。

中止:590校(77.6%)
条件付実施(保護者参加は拒否・他):140校(18.4%)
※うち開催時期延期36校
条件付実施(保護者参加はOK):7校(0.9%)
不明・その他(募集停止):23校

3月10日時点で中止を決めた大学は56校・7.5%でした。それが4月6日時点では590校・77.6%と大幅に増加しています。
条件付実施(保護者参加は拒否・他)の140校も、公立はこだて未来大学、福井大学、松本大学、長崎大学などは学生代表のみの出席。一番厳しかったのが鹿児島大学で学部生代表1名、大学院生代表1名のみという小規模開催でした。

◆慶応義塾大学は9月入学式に統合を検討

条件付開催の大学は、開催時期延期を決める大学が36校ありました。
高崎経済大学、群馬県立女子大学、仙台大学、筑波技術大学、明海大学などは4月中下旬開催。
恵泉女学園大学、湘南鎌倉医療大学などは5月、金沢医科大学は6月にそれぞれ延期を決定しています。
慶応義塾大学は9月入学者対象の9月入学式に統合することを検討しています。

◆保護者参加OKはわずか7校

入学式と言えば、保護者の参加が2000年代に入ってから急増しました。もはや、家族行事の一つとも言えるまでになっています。
が、その保護者参加を認めた(または自粛要請等の記載なし)は760校中、わずか7校にとどまりました。

稚内北星学園大学、東京純心大学、金沢学院大学、種智院大学、平安女学院大学、関西看護医療大学、美作大学

上記7校のうち、金沢学院大学(学生数2000人台)以外は学生数が1000人未満の小規模校です。
この7校も感染防止策には腐心したようで「1家族につき保護者参加は1名まで」(東京純心、金沢学院、関西看護医療)、「保護者参加は2名まで」(平安女学院)、「コンサートホールから会場変更」(関西看護医療)、「開催3日前から検温チェックを要請」(東京純心)などの対応を取っています。

実施可否不明23校のうち、2校は2019年以前に募集停止(そもそも入学式開催予定がない)が2校。9校は前期講義日程開始の延期を決めているため、入学式についても何らかの対応があったもの、と推定できます。
まとめますと、完全に不明な12校を除く748校が入学式で中止を含め何らかの対応を取りました。

◆中止時期は3月中旬が最多

次に入学式の中止・延期等の対応決定時期について、調査しました。

2月(2月20日~29日) 18校(2.7%)
→立命館アジア太平洋大学(2月20日)、近畿大学(2月25日)、早稲田大学(2月27日)など
3月上旬(3月1日~10日) 111校(14.6%)
→武庫川女子大学(3月2日)、名古屋大学(3月3日)、同志社大学(3月5日)、北海道大学(3月9日)、京都大学(3月10日)など
3月中旬(3月11日~20日) 330校(43.4%)
→信州大学・龍谷大学・神戸大学(3月11日)、筑波大学・明治大学・関西学院大学(3月12日)、関西大学・福岡大学(3月16日)、九州大学(3月17日)など
3月下旬(3月21日~31日) 242校(31.8%)
→東京家政大学(3月21日)、一橋大学・京都工芸繊維大学(3月23日)、山形大学・摂南大学(3月24日)、工学院大学・立正大学(3月27日)など
4月(4月1日~3日) 20校(2.6%)
→共愛学園前橋国際大学・兵庫医科大学・九州共立大学(4月1日)、秋田公立美術大学(4月2日)など
不明 14校

2月中に入学式中止・延期を決めたのは18校。
もっとも早かったのはグローバル教育で名高い立命館アジア太平洋大学(大分県)の2月20日。近畿大学が2月25日で2番目に早く中止を決めます。
その後、東海大学(2月26日)、早稲田大学・立命館大学(2月27日)、追手門学院大学(2月28日)など有力校が続きました。

「立命館アジア太平洋大学は留学生が学生の半数を占め、特殊。しかし、近畿大学、早稲田大学の中止で、うちも中止を考えた方がいいのでは、と考えるようになった」(九州・国立大学教員)

と、大学業界内ではもっぱらの評判です。

◆入学式実施か中止かで揺れ動いた3月

一方、入学式は、新入生を受け入れる重要な行事として、土壇場まで開催を模索する大学も多くありました。
これは中小規模の大学ほど、その思いが強くありました。
背景としては、入学式と合わせて新入生ガイダンスや保護者向けガイダンスを実施する大学が増えているからです。
「特に保護者向けガイダンスは、学費支出者である保護者に対して『うちはこういう教育をやっています』『ちゃんとフォローします、就職もさせます』とアピールする絶好の機会。これを失うのは正直、痛い」(東北・私立大学教員)

そのため、開催直前の3月末から4月にかけても、中止を決める大学がありました。

◆前期講義は4月下旬以降が36.7%

続いて前期講義の開始日についてです。

4月上旬(4月6日~10日) 67校(8.8%)
→ものつくり大学(4月8日)、公立小松大学(4月8日)、鹿児島国際大学(4月10日)など
4月11日~15日 58校(7.6%)
→福山市立大学・東北文教大学・岐阜保健大学(4月13日)など
4月16日~20日 232校(30.5%)
→鹿屋体育大学・名桜大学(4月16日)、静岡県立大学(4月17日)、大阪国際大学・宮崎公立大学・佐賀大学・大阪府立大学(4月20日)など
4月21日~25日 98校(12.9%)
→中京大学・長崎県立大学(4月21日)、南九州大学・長野県立大学(4月22日)、弘前大学(4月23日)、福岡工業大学(4月24日)など
4月26日~30日 50校(6.6%)
→愛知淑徳大学(4月26日)、宮城大学(4月27日)、麻布大学(4月30日)など
5月1日~10日 78校(10.3%)
→明海大学(5月1日)、東京都市大学(5月4日)、杏林大学・横浜市立大学(5月7日)など
5月11日以降 52校(6.8%)
→早稲田大学・芝浦工業大学・北海道大学(5月11日)、関東学院大学(5月14日)など
時期未定・不明 125校(16.4%)
→県立広島大学など

例年であれば、大半の大学は4月上旬に前期講義を開始します。
そのため、4月上旬(4月10日まで)と時期未定・不明を除いた74.8%の大学は前期講義の開始日を延期とした、と見ることができます。
一番多かったのは「4月16日~20日」の232校(30.5%)です。
意外だったのは「5月1日~10日」と「5月11日以降」が130校・17.1%を占めている点です。
各大学の前期講義開始日が確定してから改めて調査すると、5月以降が最多を占める可能性は高いでしょう。
大学は高等教育機関ですし、講義をしないことには商売になりません。
そのため、本来であれば、そう簡単に前期講義の開始日程を変更できないのです。
それほど重要な前期講義の開始日について変更を余儀なくされている、ということはそれだけ感染リスクをできるだけ避けよう、と各大学が苦心しているからでしょう。
この前期講義の開始日については、本稿執筆の4月6日以降も感染が拡大している地域を中心に変更する可能性が極めて高いところ。
後日、「うちの大学の講義開始日程が違う」と抗議が殺到しそうな部分ですが、冒頭にも記した通り、調査時点のデータ、ということでお許しください。

◆寮生活も影響・東京理科大学はキャンパスごと変更

数こそ多くありませんが、近年、大学業界で注目されているのが、寮生活です。
あえて集団生活を送ることによってコミュニケーション能力を高めるのが主眼です。
平時であれば、教育効果の高さが注目されます。しかし、コロナショックについて言えば、クラスターとなるリスクが大きすぎる、とも言えます。
1年次のみ全寮制としていた豊田工業大学(前期講義開始日4月20日)は原則自宅通学に切り替えました。遠隔地出身者などは入寮を認めますが、入寮までの確認期間に、発熱していないこと、誓約書と経過記録シートの記入などが求められます。
全寮制を取りやめた大学もあります。それが東京理科大(前期講義開始日5月1日)です。同大は基礎工学部について、北海道・長万部キャンパスから葛飾キャンパスに変更としました。
新型コロナウイルスの影響で就学先そのものが変更となるのは私が確認した限り、東京理科大学だけでした。
基礎工学部は1年生のみ長万部キャンパスで全寮制生活。2年次以降は葛飾キャンパスで学びます。
上級生不在の全寮制生活で依存できず、サークル活動も全て自ら立ち上げなければなりません。私も一度、取材に行きましたが、なかなかユニークで面白いと思いました。
この基礎工学部、2021年から4年間全て葛飾キャンパスとなることが決定済みです。代わりに2022年から理工学部国際コース(留学生が対象)が長万部キャンパスで学ぶ予定となっていました。
それがこのコロナショックで1年、前倒しとなった形になります。

◆琉球大学は学部で対応分かれる

医学部と文系学部、離れたキャンパスなどで対応が分かれる大学は一定数あります。
その中でも琉球大学はキャンパスは同じながら、対応が分かれることになりました。
琉球大学は、県内私大の沖縄国際大学と同様、前期講義開始日を延期しないとしています(4月2日時点)。
これに対して、非常勤講師からは延期を求める意見が出ました。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大を懸念し、県内各大学の非常勤講師が加盟する大学等非常勤講師ユニオン沖縄は、琉球大学や沖縄国際大学などに対し、講義の開始延期を求める緊急要請を1日付で出した。延期が認められなければ加盟する講師に自主休講を促すという。
(中略)
「仮に教室内で集団感染が発生し、それが爆発的な感染につながったら、大学は社会に対してどのような責任を取るのか。失われた命に対しては償うすべがない」と強調し、最低でも2週間の開始延期を求めた。
※琉球新報2020年4月3日朝刊「大学講義開始延期を 新型コロナ 非常勤講師ら要請」

これを受けてか、教育学部は2日に4月23日、人文社会学部は3日に2週間、それぞれ延期することを決めました。
琉球新報記事に出てくる沖縄国際大学も3日、対面式授業を13日まで実施しないことを決定しています。

◆日程の一部をオンライン・課題提出などで対応

前期講義開始日をそのままとする大学でも、延期を決めた大学でも、急増しているのが、オンライン授業の導入です。
それから、特別期間・特例期間などと呼称したうえで、課題提出に変えるところもあります。

前期日程は全部(またはできるだけ多く)オンライン
→立教大学、埼玉大学、国際基督教大学、国際教養大学、名古屋大学など
4月中(または4月下旬ごろ)までオンライン・課題提出など
→大谷大学(4月19日まで)、大阪工業大学(4月20日まで)、同志社女子大学(4月24日まで)、長崎大学(4月21日まで)など
4月~5月までオンライン・課題提出など
→同志社大学(5月11日まで)、立命館大学(5月2日まで)、明治学院大学(5月6日まで)など

このオンライン授業、当初は集計していませんでした。そのため、本稿では一部をご紹介するだけとします。こちらも今後、増加していく見込みです。

◆オンライン授業で本当に大丈夫か

このオンライン授業、これまで導入していた大学はごく少数でしかありません。
それがこのコロナショックで導入する大学が急増しました。
慣れてしまえば、教育のIT化などが一気に進むなど、メリットは大きそうです。
一方、準備して進めた話ではないため、色々、課題も多くあります。
これを細かく出して行くと、それだけで膨大な量となります。
ざっと挙げていくと、以下の通り。

・学生側が受信できる環境(ノートパソコン・スマホ等の準備、回線速度の確保など)
・資料等の著作権
・受講生のプライバシー確保
・実験・実習等をオンラインでできるかどうか
・非常勤講師の環境整備

このうち、受信環境については、総務省要請を受けて携帯3社が25歳以下のデータ通信プランの一部無料を決めています(毎日新聞4月4日朝刊「新型コロナ 携帯3社、データ追加料一部無償 25歳以下、オンライン授業対応」)。
ただ、契約等をしていない学生も当然ながらいます。そのため、どの学生もオンライン授業が受けられるような環境整備のため、今後も国・政府による支援策が求められます。

著作権については、文化庁が1年間前倒しする形で利用を認める方向で調整中です。
(共同通信2020年4月3日配信記事「ネット授業も著作物の利用自由に 文化庁、コロナで新制度前倒し」)

一方、オンライン授業のツールや運営方法によっては、学生の質問なども受講者以外にも公開されてしまいます。受講学生のプライバシーをどう保つのか、慎重な運用が求められます。

それから、オンライン授業に必要なウェブカメラ・マイクなどはテレワークの導入もあって、現在、不足気味です。そうした機器を非常勤講師がどう揃えるのか、なども課題として考えられます。

◆前期講義延期と合わせて進む「大学封鎖」

大学関係者に取材をすると、郡山女子大学(教員が感染)、京都産業大学・県立広島大学(それぞれ卒業生がヨーロッパに旅行、帰国後に卒業式・懇親会に出席しその後、感染)などの事件で対応を変えたところが多いようです。

「特に京都産業大学は、あれで『ああ、あのコロナの大学か』と悪く認知されてしまった。ノーベル賞受賞者が教員でいるのに、あの悪いイメージを覆すのはそう簡単ではない。京産の件が報じられてから学内の『講義延期は慎重に』との論が急速にしぼんだ」(首都圏私大教員)
「京産や県立広島の卒業生の対応は良くない。ただ、同じ対応をした学生・卒業生は他にいくらでもいる。いくら卒業式を中止しても、懇親会を開催した卒業生は多かった。うちの大学からも感染者が出ないか、心配だ」(関西・国立大学職員)

郡山女子大学、京都産業大学、県立広島大学などは、それぞれ、社会から厳しく批判されることになりました。
この騒動を受けてか、前期講義開始日の延期と合わせて進んだのが、大学の窓口閉鎖や学生の登校自粛・入構禁止などです。言うなれば、大学封鎖、と言ったところでしょうか。

大正大学(4月12日まで)、立正大学(4月17日まで)、東京芸術大学(4月19日まで)、中央大学(4月21日まで)、武蔵野大学(「4月中は極力避ける」)、千葉工業大学(5月1日まで)、神奈川県立保健福祉大学・京都先端科学大学(5月6日まで)など

サークル活動は学内だけでなく学外も禁止とする大学が増えつつあります。
新入生勧誘についても同様です。
そのため、小規模サークルの上級生は頭を抱えています。
「うちのサークルは小さい。それでも新歓で仲良くなれば、ある程度は加入してくれる。それが今年はできない。SNSなどで発信しても、そもそも見てくれないし、どう勧誘しようか…」(関西学院大学)

音楽系の学生は学内の練習施設も使えないことに。

「練習もそうですし、学内外で演奏会を重ねることで技量を上げていきます。今年はそれが長期間、できないので、音楽学部の学生はみんな悩んでいます」(首都圏・音楽系大学)

◆「大学封鎖なら就活封鎖を」との意見も

前期講義開始日を延期として、自宅待機を求める大学も増加しています。

「自宅待機中に、アルバイトはどうするのか。今の学生はアルバイトをしないと、家計が厳しい学生も多い。と言って、無制限に認めてしまうと、それはそれで感染リスクがある。結局、『できるだけ避けるように』くらいの表現しかできない」(中部圏・私立大学教員)

それから、入学式や前期講義の中止・延期だけでなく、就活そのものを止めるべき、との意見もあります。
実際に、九州の私立大学では首都圏に就活に行った学生が感染。前期講義開始日の延期などを全部変える騒動にまで発展したところもあります。

就活については、私も同感です。
3月30日にこのYahoo!ニュース個人記事「都市封鎖の前に就活封鎖が必要~マイナス少なく効果大のコロナ対策」
にまとめました。

詳しくは同記事に譲りますが、感染リスクを低減する、という点で効果の高い施策と考えます。

卒業式・入学式の中止から、前期講義開始日の延期、就活の中断など、コロナショックは日本の大学業界にも大きな影響を与えることとなりました。
しかし、私は多くの知恵によって、様々な危機が乗り越えられる、そう信じています。