【西日本豪雨2年】漫画で復興に貢献を 岡山・真備 大学講師がツイッター投稿



  200人を超える死者・行方不明者を出した西日本豪雨。被害が大きかった岡山県倉敷市真備(まび)町地区の自宅兼事務所にいた漫画家は当時、眼前に迫る濁流に、ツイッターで悲痛な叫びを発信した。自宅は全壊したが、インターネットでカンパを募ると約1カ月で仕事の再開に必要な資金や道具が集まった。「1人では生きられないと気づかされた」と、昨春からは復興の様子を伝える漫画をツイッターに掲載。「漫画で復興に貢献したい」と話す。(尾崎豪一)

 「しぬど……」

 平成30年7月7日午前8時50分、「かぼちゃ」のペンネームで漫画家として活動する倉敷芸術科学大講師の松田博義さん(36)が、眼前に広がる濁流への恐怖をツイートすると、身の上を案じる返信やリツイートは千件を超えた。

 前日夜、近くの小田川の様子を見て「大したことはない」と高をくくっていたが、水位は急上昇。高台の実家に避難しようとしたが道路が冠水していたため、2階建ての自宅での“籠城”を余儀なくされた。

 泥水は少しずつ家屋をむしばみ、「ゴポッ、ゴポッ」と不気味な音とともに家具が浮き上がる。執筆部屋のある2階に逃げ込んだが、泥水が迫ってきた。「もうだめだ」。妻の斐子(あやこ)さん(31)と飼い猫とともに1階の屋根上に上がり、ともに毛布にくるまって風雨をしのいだ。

 翌朝には水が引き、ボートで救助されたが、自宅は全壊。パソコン(PC)のサーバーに保存していた原稿や画材は一部を除き、ほとんど失われた。

 「漫画で何かしら情報発信はできるはず。この体験を漫画にしよう」と考えたが、機材がない。「涙も出ん」と心中をツイッターに吐露すると、1週間後には同郷の男性ファンからPC提供の申し出が。知人の勧めで、会員制交流サイト(SNS)を通じてギフト券を送る送金サービス「Kampa!」で資金援助を募ると、約1カ月で必要な資金が集まった。

 「短期間にあれほどの金額を、自分に送金してくれる人がいると思わなかった。本当に『ありがとう』という言葉しかなかった」と松田さん。「1人が好きで漫画家になったけれど、1人では生きられないと気づかされた」

 この恩を、どうやって漫画で返せばいいか。同業の斐子さんとも話し合い、昨年4月から復興に向けて歩む地元の商店を紹介する「真備復興漫画」をツイッターに掲載。大学の教え子も手伝うようになり、「人の役に立って初めて『生きている』と実感した」と語る喫茶店主や、「雨が降ると当時を思い出す」酒屋の店主ら、松田さんたちが直接聞いた被災者の声を描いている。

 あれからまもなく2年。「新しく家が建ち、人が戻ってきて、町の景色はガラッと変わった」と明るい兆しを実感するが、「まだ、文化の薫りが足りない」とも。「漫画は文化そのもの。漫画を通じ、町の文化の復興に貢献できれば最高だ」と目を輝かせた。