マスクの着用にひそむ「4つの落とし穴」とは?

 2020年6月に発表された研究により、一定割合の人がマスクをすれば新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は抑えられるという説が唱えられているほか、かねてからマスクの着用について消極的な立場を貫いてきた世界保健機関(WHO)も、一転してマスクを推奨する方針を打ち出しています。しかし、マスクは適切に利用しなければデメリットが生じる危険性をはらんでいると、専門家は警鐘を鳴らしています。




イギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで行動科学と健康の関係について研究しているオルガ・ペルスキ氏と、王立獣医大学で人獣共通感染症の研究をしているデビッド・サイモンズ氏は、「マスクなどの安全策を実施するかの判断には、メリットと潜在的なデメリットのバランスをよく検討することが重要です」と述べて、マスクの着用について対策を講じなければ事態を悪化させかねない問題点を4つ指摘しました。

◆1:安心感により手洗いなどがなおざりになる危険性がある

安全を高めるための規制を行った結果、低下したリスクを埋め合わせるかのように危険な行動が誘発されてしまうことがあります。この現象は、「リスク補償行動」もしくは「ペルツマン効果」と呼ばれており、例えば、自動車のシートベルト着用などの安全規制を設けると、かえってスピード運転などの無謀な運転が横行してしまう場合があるとされているのも、この現象に起因しているとのことです。

実際に、ペルスキ氏らが実施したマスクの有効性に関する研究では、「マスクの着用を指示された実験グループは、指示を受けていないグループに比べて、手指消毒剤の使用が有意に少なかった」ということが分かっています。



◆2:マスク着用が徹底されていないことがある

ペルスキ氏らによると、マスクが効果を発揮するためには、他の人と接している間、常にマスクを正しく着用している必要がありますが、必ずしもそれが守られていない可能性があるとのこと。近年の医療現場では、患者が医師の指示を順守することを意味するコンプライアンスに代わり、適切な治療を進めていくために必要な概念として、「患者が治療について十分に理解した上で、積極的に治療に関与すること」を指す「アドヒアランス」が重要視されるようになっています。

ペルスキ氏らが行った前述の研究では、マスクの効果について論じた合計21件の論文を横断的に分析していますが、その中で実験中の参加者のアドヒアランスが「良好だった」と報告した論文は3件しかありませんでした。このことから、ペルスキ氏らは「COVID-19が世界的に大きな被害を出していることを踏まえると、これまで以上にアドヒアランスが重要になります」と述べました。



◆3:マスクが感染を媒介する可能性もある

COVID-19は、ウイルスの粒子が付着した手で口や鼻を触る「接触感染」により感染します。人間が顔に触る回数は、平均して1時間に15~23回だということが分かっていますが、マスクの着用により顔がむずがゆくなったりすれば、顔に手を触れる回数はさらに増加すると予想されます。

このことについて、ロンドンにあるウィッティントン病院の感染症専門医であるベン・キリングリー氏は、「マスクがウイルスを遮断する場合、汚染はマスクの外側でも発生します。そのため、マスクの表面に触れると手も汚染されてしまい、それが新たな感染を引き起こすおそれがあります」と述べました。



◆4:使い捨てマスクが大量のごみを発生させる

マスクはCOVID-19と直接関係がある問題のほか、環境汚染の原因にもなり得ます。プラスチックごみについて調査している研究機関UCL Plastic Waste Innovation Hubによると、人口約6800万人のイギリス人が毎日1枚ずつ使い捨てマスクを着用した場合、年間で6万6000トンの汚染されたプラスチックごみが発生すると試算されているとのこと。

こうした点を踏まえて、ペルスキ氏らは「WHOにより、公共交通機関など距離をあけることが難しい場所では、一般人でもマスクを着用することが推奨されています。これに加え私たちは、手指の衛生管理もしっかりと行い、顔に触るのを避け、使い捨てマスクではなく再利用可能なものを使用し、使用期限が過ぎたら安全に気をつけて処分することを強くお勧めします」と呼びかけました。